「これを」

夕食後、ちゃぶ台越しに差し出されたのは、小さな青い天鵞絨張の箱。

「・・・これは何ですか?カカシさん」

「開けてみてください」

予感は当たった。中には、硬質な光を放つ、細くて繊細な銀色の指輪。

 カカシさんを見返すと、手甲を外した彼の左手薬指に、同じ輝きがあった。

じっと指輪を見つめる俺の耳に、

「・・・してくれなんて、我儘は、言いません」

カカシさんの声は、一生懸命なくせに、頼りなげだった。

「持っていてくれるだけで、いいんです。オレの自己満足でいいんです。・・・ただ、オレはあなたのものだから。それだけ、分かっていて欲しくて」

 あなたに、身も心もすべてを捧げています。

今までも、これからも。これはその証です。

 俺は、箱を静かに閉じると、カカシさんの前に置いた。

彼の顔が傷ついたように歪んだ。

俺は覚悟を決めた。

「カカシさん。一つ確かめておきたいことがあります」

「・・・はい」

「俺は今まで、あなたに好きだとは一言も言ったことがなかった」

「・・・はい」

「一年間、あなたの心を受け取るだけで、俺からは、何も返さなかった」

「・・・いいんです。オレが勝手に好きになったんですから。こうやって、一緒にいてくれるだけで、オレは、いいんです」

「カカシさん。・・・俺はあなたが好きです」

 イルカ先生、とカカシさんは呆然と呟いた。初めての告白だった。

「カカシさん・・・今なら、まだ間に合うんです」

「・・・どういう意味ですか?」

「俺は男で、あなたの子供も生めない。あなたの伴侶には相応しくない。だから、この一年、あなたが俺に愛想を尽かして去っていってくれる事を願ってました」

 こんなに好きだから、自分から別れを切り出すことなどできなかった。

「あなたに好きだと言ってしまったら、俺はもうあなたを手放すことが出来なくなってしまう。あなたに嫌われても、憎まれても、俺がいない事があなたの幸せになるとしても、離れてあげることができなくなってしまう。だから、カカシさん。俺のこの気持ちを死ぬまで受け止めるつもりがないのなら、今日、ここで終わりにしましょう」

「・・・・・・」

「・・・でも、もし、俺を受け入れてくれるのなら」

俺は、震える左手を差し出した。

「どうか、その証を俺に下さい」

 一年間隠し続けていた言葉を。

俺もあなたに、身も心も捧げていますと、言わせてください。

 

 

 

それは密やかな、二人だけの誓い。

死が二人を別つまで。

 

 

 

050619

 

 

 

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