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「これを、納めてくれんかの」 そう言って、老女が開いた風呂敷の中は、手の切れそうな新札が5束。 「お前さんとはたけカカシの仲、非難するつもりはない。じゃが、あれ程の男、血筋を残さぬことは里にとって大きな損失じゃ」 妻を娶り子を成す。里の為。ひいてはあの人の為。 「・・・わかりました」 頷く俺に、老女は満足げに呟いた。 「さすが物わかりがよい。カカシは聞く耳も持たなんだ」 笑うカカシさんの顔をじっと見ていた。 目に焼きつくように。 これから先、何年経っても、はっきりと思い出せるように。 「・・・イルカ先生、オレの顔、何かついてますか?」 いいえ、と答えて、俺は切り出した。 「カカシさん。この部屋の合鍵を、返してくれませんか?」 カカシさんの動きが、止まった。ゆっくりと、俺を見る。 「・・・どうして?」 「もう、ここには来ないで下さい」 さらさらと、言葉が口からこぼれてゆく。取り返しがつかない言葉が。 カカシさんは、表情のない顔で俺を見ていた。そして、眉を寄せた。 「・・・オレ、こんなですから・・・気がつかないうちに怒らせてしまったんだったら、謝ります。ごめんなさい」 「怒ったりはしてません」 「・・・だったら、何でそんな事言うの?」 そんな顔しないで。 「・・・嫌いになったんです」 自分の事が。 縋りついてはいけないのに。縋りついてしまいそうな自分が。 あなたの幸せを願うのに、一生側にいて欲しいと願う自分が。 あの金、もらっておけばよかった。今ここで彼に見せたら、きっと心底愛想を尽かされたのに。嫌われることができたのに。 「・・・そう」 分かった。 小さく呟いて、カカシさんは立ち上がった。 鍵が、畳に落ち、彼の気配が消えた。 俺はその鍵を手に乗せた。その小さな贈り物を、彼がどれほど喜んでくれたか。 もう、涙も出て来なかった。 心のどこかで、わかっていたのかもしれない。 「嫌だっていっても、連れて行く」 十日後の深夜。窓の外。彼は俺に手を差し出した。 その笑顔に、眩暈がする。 どうして、あなたはそんなに簡単に、俺の決意を揺らがせるの? 「一緒にいられるなら、どんなことでもする」 ・・・あぁ、神様。悪魔のような俺を許してください。 彼の言葉に、心が震えるような喜びを感じてしまう俺を。 生まれ育った里より、彼の幸せより、自分の喜びを優先させてしまう俺を。 「・・・俺を連れて行ってくれるんですか?」 幸せそうに、カカシさんは微笑んだ。 「あなたがいなければ、世界に意味がないんです」 そして、確かな足取りで、二人の忍が里を去った。 050621 |
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