※注※

7月後期〜8月前期Web拍手御礼リメイク

 

 

 

雨の夜だった。

「で、はたけ上忍が到着した時には、部隊の生き残りはほぼ半数だったと」

書類に目を落としたまま、イルカ先生が言った。

「はぁ・・・まぁ・・・そんな感じですかね」

やる気の感じられないオレの返答が気に入らなかったのか、イルカ先生は、書類からちらりと目を上げた。真っ黒い瞳と視線があった途端、すいと逸らされた。

・・・あらら。自分の感情を持て余す。やっぱり、結構こたえてるよなぁ、オレ。

「お疲れなら、日を改めますが」

「全然、疲れてないよ」

ため息をつかれた。

間抜けな話だ。

ランク無しの任務として駆り出された、遠い国での戦争。前線で孤立した部隊を助ける為に、オレは戦場を駆け回った。その時に生きてた奴は全員逃がす事ができたけれど、おとりになったオレは、敵の集中攻撃を受けて、全治数ヶ月の怪我を負った。

木の葉医院で面会謝絶の札を下げられたが、特に命に別状はない。ただ、報告書を書くにも、包帯にぎっちり締め上げられた手では思うようにいかない。

で、火影様に命じられて、病室に事情聴取に現れたのが、イルカ先生。

3ヵ月前に、別れた男。

・・・本当に、間抜けな話だ。

 

 

 

さあさあと、窓の外から雨の音が聞こえる。

書類にペンを走らせるイルカ先生の姿を、ベッドに横たわったまま、オレはじっと見ていた。

不思議な感じがする。3ヶ月前までは、自由に触れる事ができたその体。

今も、3ヶ月前と同じようにオレの目の前にあるのに、手を伸ばす事も許されない。

相変わらず、しゃんと伸びた背筋。

かっきりした肩幅。

髪を高く結い上げているせいで、露わな耳元と、顎の線。

そこに舌を這わせた時の反応を思い出して、オレは益々やりきれない気持ちになった。その体にものめりこんでいた事を今更ながらに思い知る。

3ヶ月前に別れてからも、受付で時折顔を合わせた。気まずさを噛み殺して笑顔を見せるイルカ先生は、本当に受付の鑑だ。

付き合おうと言ったのはオレ。正直、軽い気持ちだった。

オレの恋愛の基準は至極単純だった。楽しければ、気持ちよければそれでよし。男も女も関係ない。だから、ナルト達を通じて知り合った常識の塊みたいなこの人を落とせたら面白い。きっかけは、本当にその程度だったのだ。

そんなオレだったから、かなり手強かったこの人を口説き落とし、その体を堪能しつつも、他にもちょいちょいつまみ食いした。しかも、それを隠そうともしなかったから、すぐにあっさりばれた。

あの日、イルカ先生は今日みたいに姿勢を伸ばして、少し赤い目でオレに言った。

「俺は、そういうのは駄目なんです」

「あ、そ。だったら別れましょう」

・・・本当に馬鹿なオレ。何でそんな事が言えたのか。

後悔先に立たずとは、まさにこの事。イルカ先生に去られてやっと気付いた。きっかけはともかく、イルカ先生を追いかけて、自分のものにしようと躍起になっている間に、オレは逆に、この人に囚われてしまっていたのだ。

皆の中の一人ではなく、オレだけを見て。ずっとオレだけのものになって。その願いが叶う地位を自分から捨てた後で、それを渇望している自分が滑稽だった。

「お疲れ様でした」

書類を書き上げたイルカ先生は、荷物を片付けて立ち上がった。そこでようやく、真っ直ぐ俺を見てくれた。

「怪我の具合は?」

こんな一言でも、嬉しいと思う。

「大丈夫。大げさなだけ」

困ったように眉を寄せて、イルカ先生は微笑んだ。

「強がりは、相変わらずですね」

相変わらず。

その言葉が、オレの心に波紋を起こした。

「うん。あなたを好きなのも相変わらずです」

今度は本格的に、イルカ先生は困った顔をして黙った。

イルカ先生と別れてから、他の人間に対してそういう気持ちが起こらない。結果として、3ヶ月童貞なんて、我ながら笑える。別れた後で、別れた相手に操立ててどうするのって話。

「・・・やっぱり、もう、迷惑?」

沈黙が、つらい。拒絶されていると、心にも傷にも沁みる。

「俺を振ったのは、あなたの方でしょう」

そう言ったイルカ先生は、怒っているようだった。

「浮気を咎められて、別れようなんて、勝手すぎやしませんか?」

「勝手です。ごめんなさい」

イルカ先生は、忌々しげに床を見つめた。

「・・・あなたがそんなだから・・・俺は・・・浮気されてもいいから、なんて、馬鹿なことを思ったりもしました」

「もう絶対、しません」

オレは必死で言い募った。

「イルカ先生だけですから、だから」

「俺だけって何ですか?」

イルカ先生の顔が、泣きそうに歪んだ。

「あなた、俺の事なんて別に好きじゃなかったって言ったじゃないですか」

手の甲で口元を押さえる仕草に、胸が痛くなる。

「俺を落とすのが面白かったからって言ったじゃないですか・・・それなのに・・・・俺はそんなあなたを本気で好きになってしまって・・・俺にはあなたという人が、分かりません」

震える声で言うイルカ先生を抱きしめたいのに。

「ね、イルカ先生」

オレはイルカ先生に手を伸ばした。

「オレにチャンスを下さい。もう一度あなたの恋人になりたいんです」

「・・・・・・」

「すぐにとは言いません。あなたが、オレを信用できるようになったら、その時にまだオレの事を好きでいてくれたら、オレともう一度やり直して下さい。お願いします」

カカシさん、とイルカ先生は呟いた。

「俺は、ずっと未練たらたらなんです」

「オレもです」

「・・・もう二度と、別れてあげる事はできませんからね」

そう言って、イルカ先生は、オレの上に身を屈めた。一瞬、唇が掠めた。

付き合ってる時でも、自分からしてくれた事無かったのに。赤く染まった顔が、無茶苦茶可愛い。

「早く怪我を治して下さい」

治します、と息巻いたオレに。

イルカ先生は、やっと、3ヶ月ぶりに、心からの笑顔を見せてくれた。

 

 

 

050720

050821リメイク

 

 

 

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