※注※

10月後期〜11月前期Web拍手御礼リメイク

 

 

 

互いに恨みがある訳ではない。

こういう風に出会ってしまっただけ。ただ、それだけ。

もう3日、深い森の中を、オレは女を寝ずに追い続け、女も逃げ続けていた。

女は腕が立った。幻術だけなら、紅と肩を並べるだろう。だが今日になって、反撃の精度が頓に鈍ってきていた。そろそろスタミナが切れるか。右腿に負わせた傷も、女の力を確実に奪っているようだった。

樹間を見え隠れする女の背中が、急にがくりと崩れた。そのまま、眼下の茂みへと落下してゆく。

オレは、女が落ちた付近へ身を翻した。殺気は無く、地面に横たわる女の姿が見えた。

その瞬間、オレはクナイを横へ払った。

僅かに頬が切れた感覚がして、女が、親指の先を舐めながら、クナイの先でにやりと笑った。

ぼん、と煙がたち、後ろへ飛び退った女の笑顔が消えた。地に伏せていたのは、女の上着を被せられた太い薪だった。

頬の傷をオレは手で拭った。毒が入った様子はない。

血を奪われたようだった。

耳を澄まして気配を追った。怪我を負った右足では、どんなに取り繕っても足音に乱れが出る。その微かな異音を探り、オレは北の方角へ駆け出した。

いくらも進まぬ間に、息を殺した、小さい悲鳴めいた声が耳に入った。

そちらへ身を返すと、太い樹の根元に、女が向こうを向いてへたり込んでいた。荒い呼吸音が聞こえる。右の大腿に太い木の枝が突き刺さっていた。

無用に苦しめはしない。一撃で。オレは音もなく女の背後に忍び寄った。その時、女が振り返った。

オレは、目を疑った。

「カカシさん」

オレを呼ぶ声の調子もそのままに、イルカ先生が笑っていた。

受付で見る、朗らかな。ずっと守ろうと思っている、大切な。

畜生。何て事をさせる。一瞬の躊躇が隙を呼んだ。

オレのクナイが、イルカ先生の姿をした女の咽に食い込むのと、女の忍刀がオレの胸を抉るのとはほぼ同時だった。

 

 

 

初恋だと言ったら、笑われるだろう。

20も半ばを越えて、初めて好きになった人だと言ったら。

出会った頃は、どこにでもいる普通の男だと思っていた。忍にしては感情が豊かで、それを臆面もなく表に出す、それ以外は大して目立つところなどない、凡庸な、ただの男だと。

恋に落ちた、その理由なんてオレには分からない。

気がつけば。

吹く風に、見える景色に。触れる世界に。

祈るように、切実に、あの人を想うオレがいた。

 

 

 

イルカ先生。イルカ先生。

胸に刺さった刃に、赤い血が伝っていくのを、オレはぼんやりと見つめた。

地に倒れたオレの視界は、斜めに歪んでどんどん暗くなってゆく。向こうには、女の死体が転がっている。

女が絶命する時に、術が解けてよかった。あの人の苦しむ顔なんか、偽者でも見たくない。

イルカ先生。ずっと好きでした。

呼吸が苦しくて、オレは小さく咳き込んだ。

この気持ちを伝えるつもりはなかったけれど、ずっとあなたの側にいたかった。

どんな事があっても、命に替えても守ろうと誓っていたのに。こんなところで。あなたに、この気持ちを知られることもなく。

オレがいなくなったら、あなたは泣いてくれるだろうか。ナルトの哀しさを思う優しさで、オレを思い出してくれるだろうか。

・・・それを幸せだと、思おうとしたけれど。

オレのいない世界で、あなたはオレに向けてくれた笑顔を、他の誰かに見せるのだろう。

誰かを愛し、慈しみ、その深い情で、大切に大切にいとおしむのだろう。

オレにはあなたしかいないのに。

今も、こんなにも、あなたの事しか考えられないのに。

あなたは、オレを忘れて。

・・・嫌だ、そんなのは。

オレは胸の刀を引き抜こうともがいた。

せめて、せめて一言。あなたに。

「馬鹿、止めろ」

力が入らない腕を、誰かに押さえられた。耳鳴りの向こうで、がやがやと人の声が聞こえた。

そして、煙草の匂い。殆ど塞がりかけた目に、髭面が映った。あぁ、アスマ。

「抜くと、血が吹き出す。このまま運ぶからな」

アスマ、お願いがある。

「オレを・・・」

「しゃべるな。大丈夫だ、絶対に里に連れて帰ってやる」

「頼むから・・・」

咽がごぼごぼいって上手く言葉が出ない。

「オレを・・・あの人の所に・・・連れて行って」

あの人に、伝えたい事があるんだ。

死ぬ前に、一言、伝えたい言葉があるんだ。

 

 

 

hope2

 

 

 

051024

051215リメイク

 

 

 

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