※注※2月期Web拍手御礼リメイク

 

 

 

制服は隣の高校。学年は、恐らく同じか一つ下。

学校帰り、週に何度か、同じ電車の同じ車両に乗り合わせる彼は、大抵友達数人と一緒で、大抵楽し気に笑っていた。

オレは。

吊革に捕まり、彼に背を向けて、車両の窓を見ていた。

闇に浮かび上がるように、彼の横顔が、窓ガラスに映っている。

春も夏も秋も冬も。

その黒髪を、滑らかな額を、鼻の傷を、日焼けした耳を、かっきりとした肩を。

ずっと、見ていた。

 

春が来る。この電車に乗るのは今日が最後。

それでも勇気を出せないオレを置き去りに、彼が降りる駅名のアナウンスが流れた。

好きだった。これからも、きっと、多分、ずっと好きだ。

心の中で叫んで、吊革を握り締めて、ドアが開く音を背中で聞いた。

彼の名前だけを知っていた。

それだけを、この心に。

一度ぐらりと揺れて、車両は走り出した。

全身から何かが抜け落ちたような気持ちで、再び窓ガラスに目をやった俺は、思わず声を上げそうになった。

夜の街が流れゆく、窓ガラス越し。

電車を降りなかった彼は、確かに、オレを見ていた。

 

「あんた、いつも、何読んでるの?」

彼はオレに並んで、吊革に掴まった。手の中の文庫本を覗き込むから、中表紙を見せた。

「俺も、その作家、好き」

横顔じゃない、オレだけに向けられた笑顔。とてもじゃないけれど、真っ直ぐ見られなくて、オレは目を逸らした。

後は、意気地なしの心臓の音だけが聞こえる、沈黙。

 

次の駅名が告げられ、再びドアが開いた。

「最後に、話せてよかった」

そう薄く笑って、彼は吊革を手放した。その指の震えが、彼の、精一杯の勇気だったと知る。

 

どうか。慈悲深き神様。

あなたが与えたもうたこの幸いを、我が手に入れるその力を。

真っ直ぐな背中がホームの人込に紛れる前に、オレは車両を飛び出した。

 

「イルカ」

初めて名を呼び。振り向かせれば。

赤く染まった目元と、食いしばった口元と。

これからが始まる音が聞こえた。

 

 

 

060208

060311リメイク

 

 

 

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