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「・・・こんな人だとは思わなかった」 力無くシーツに沈んだ体を抱き寄せれば、しっとりと濡れた肌から彼が薫る。 「どういう意味?」 寄せた眉根の下で潤む瞳よりも、吐息と共に零れる掠れた声よりも、何より彼の熱情を如実に表してくれる部分に手を伸ばす。 「・・・も、無理ですっ」 息を詰め、頼りない仕草でオレの指に爪を立てたところで、萎える事を知らないオレの欲を煽る態にしか映らない。 「大丈夫」 赤く尖った胸の突起を啄めば、悲鳴のような細い声と共に喉が反る。 「あんたの体の事は、オレの方がよく分かってる」 どくりと脈打った彼の雄を握り込んだまま、オレはもう一方の手を、彼の最奥へと伸ばした。散々に注ぎ込んだオレの精が、後口から溢れ出して、腿の内側までしとどに濡らしている。 「まだ、オレの形を覚えてるね」 指先に熱を感じながら、入り口の襞をのばすようになぞると、いやだ、いやですと震える声が上がった。切実さを滲ませた訴えさえ扇情的に響くのは、オレの執着が過ぎるからだと頭のどこかで思いながら、指を2本、そのまま関節まで押し込んだ。 「あ・・・あ・・・」 受身の快楽に慣らされた体は、理性の域に踏み留まろうとする意思を裏切って、他愛なくオレの手の中に堕ちてくる。穿つ熱を迎え入れる為に、開き、温み、ほころんでゆく粘膜の感触は、彼の中に入った時の目が眩むような恍惚を呼び起こす。 ぐちゅぐちゅ、と殊更水音がたつように内壁を弄った。 「聞こえる?すごい音」 日向の匂いのする彼は、こうやって辱められる言葉に弱い。 「まるで女のあそこが喜んでるみたい」 耳元で低く雄の矜持を擽る。 「オレに抱かれたくて堪らないって、言ってるみたい」 快楽に溺れかけていたイルカ先生の表情に、羞恥と屈辱が色を添える。征服欲を煽るその無意識の媚態に、オレの下半身が一気に切実さを増す。 早く。 堪らなくなってオレは指を抜いた。 早く。その中に入りたい。 「ね、見て。イルカ先生」 彼の膝を胸につくように大きく広げると、イルカ先生は諦めたように息をついてオレを見上げた。その黒々と濡れた瞳を真っ直ぐ捉えながら、オレは猛り切った自分の欲望を、彼の小さな入り口に捻じ込むように押し入れた。 「―――っ」 貫く衝撃がイルカ先生の背をしならせ、縋るように伸ばされたその指が、オレの喉を引っかいた。彼の呼吸に合わせる余裕は無い。ただ、彼が欲しくて、逃げようとするその腰を掴んで引き寄せた。 温かく、きつく、絡みつく。入るだけでこんなに満たされる体を、オレは彼以外に知らない。 「ちゃんと、見て」 肩を抱き、堪えるようにきつく閉じた目元に口付けた。 「あなたの中に入ってるのが誰か、あなたを抱いてるのが誰か。ちゃんと、その目で見て、感じて」 イルカ先生は切なげに首を振り、泣き声のような声を上げた。 「・・・や・・・や・・・です・・・」 「いや?」 忙しなく瞬く瞳を覗き込んだ。 「本当に、いや?こんなになってるのに?」 彼の雄は、白濁を混じらせた滴りをその先端から溢れさせて、腹に淫らな筋を残している。ほら、と塗りこむように指を這わせると、イルカ先生はひくりと咽を鳴らして甘く絞ってきた。 「・・・やめてよ、イッちゃうじゃない」 その背中に腕を回してきつく抱き込むと、深くなった結合に、合わせた胸がため息と共に震えた。 「まだ、ね。イキたくない」 ゆるゆると彼の内壁の感触を確かめるように動いた。奥へ奥へと誘うきつい蠕動に、頭の後ろに血が集まってくる。 「あんたのいい所を沢山突いて、あんたを死ぬ程よがらせたい」 条件反射でも生理現象でも何でもいい。 恋情なら、最高にいい。 どうか、イルカ先生。オレで感じて。 オレだけで、全部満たされて。 「ね、さっきの、どういう意味?」 広い湯船は、男二人で浸かっても余裕がある。オレは、くたりとしたイルカ先生を胸にもたれさせ、腹に腕を回して、彼の濡れた髪に鼻を埋めた。 「・・・何がですか?」 向こうを向いた不機嫌な声は可哀想な位掠れている。ぴちょん、と天井から雫が落ちた。 「さっき。『こんな人だとは思わなかった』って、言ったじゃない」 イルカ先生は、オレをちらりと振り返って、再び視線を前に向けた。 「もう、いいです」 「よくない。気になりますよ」 「・・・・・・」 「ね、教えて」 数秒の沈黙の後、イルカ先生はオレから顔をさらに逸らすようにして、早口で言った。 「もっと、淡泊な人だと思ってました」 ・・・それは、セックスがオヤジ臭いって事?だったら、かなり痛い。 「・・・・・・ねちっこくて、すみません」 オレの返答に、イルカ先生は一瞬きょとんとした表情を浮かべ、それからくくく、と笑い出した。 「そうじゃなくて。何ていうか・・・」 ぱしゃり、とイルカ先生は掌で湯をすくった。 「もし、俺がカカシさんに告白しなかったら、カカシさんは、ずっと友人同士でも構わなかったんでしょう?」 言葉は悪いですが、とイルカ先生は唇で薄く微笑んだ。 「あなたにとっての俺はその程度なのか?って、最初は思ってたんです」 「・・・・・・」 「それでも、一応は恋人という形になれたんだからいいじゃないか、と、自分で自分を納得させていたんです」 ああ、と思う。 こんな時、オレの心は苦しいほどの幸福に満たされる。 木の葉の里が一年の内で最も冷え込む季節、オレの部屋を訪ねてきたイルカ先生は、玄関に立ったまま、あなたが好きです、と耳まで赤く染めて、どこか悲壮な表情で言った。 それが、オレにとってどれほど嬉しいことだったか、きっと、誰にもわからない。チャクラの気配さえ消した匿名の贈り物に、気づいてくれた喜びの大きさも。 3年前、イルカ先生と出会ってすぐに、彼への恋心を自覚した。その時に、オレは一つ決心した。 絶対に、オレからは告白しない。どれほど彼が欲しかろうと、もどかしかろうと、階級を越えた友人、という関係を自分からは崩さない、そう決めた。 忍として、人の心を己の思うままにできる技と術をオレは持っている。無論、それを任務以外に使ったことはないけれど、自分の意思が相手の心を塗り替えてしまう空しさが、恋しい相手に想いを伝える勇気を、オレから奪っていってしまった。 本当は、どんな事をしてでも、イルカ先生の心をオレだけで満たしたい。でも、それでは意味がない。 だから、イルカ先生自身に選んで貰いたかった。 オレを好きになってください。自分の意志で、オレに堕ちてください。 階級も常識も、すべてのしがらみを越えて、オレを求めてください。 誰よりも近くで、誰よりも大切にしながら、そう、ずっと願っていた。 「今は?」 かり、とイルカ先生の耳に歯を当てた。 「自分で言うのもなんですが、セックスはしつこいし、べたべたくっつきたがるし、アカデミー生にも焼き餅焼くくらい嫉妬深いし。ひょっとして、愛想が尽きました?」 イルカ先生は、今度は盛大に笑い出した。朗らかな笑い声が浴室に反響する。 「ま、騙されたような気分ではありますね」 目元を擦りながら、首を傾げるようにしてオレを見たイルカ先生は、 「そんな事位で愛想が尽きるようなら、最初から惚れたりしませんよ」 むしろ、と顎を上げて、オレに軽く口付けた。 唇が離れると同時に聞こえた、嬉しいです、の小さな囁きは、天井から落ちてきた雫が湯に跳ねる音に溶けて滲んだ。 060415 |
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