たまの休みは二人で朝寝。

心地よい眠りから目覚めれば、すぐ隣に愛しい人の可愛い寝顔。

・・・っていうシチュエーションに、密かに憧れてたりするんだけれど。

窓から差し込む朝日に目を開けてみれば、今日もまた、そう広くないベッドにオレ一人きり。隣に開いたスペースに手を伸ばしても、あの人の体温はもう欠片も残っていない。

ため息をついたオレの耳に、寝室と居間を隔てる襖の向こうから、あちらへこちらへ、忙しげに動き回っている気配が伝わってきた。

きっと、いつもの様に早起きして、平日に溜めた家事を片っ端から片付けているんだろう。

「・・・イルカ先生のバカ」

布団を被りなおして、オレは呟いた。オレが起きたのに気付いただろうに、愛しいあの人は、襖を開けようともしてくれない。

何て言うんだろうね、こういうの。寂しい?切ない?やるせない?眠りの中でも満たされていた、忍の習性を忘れる程の安心感が、しゅるしゅると寂しくほどけていく心地がする。

二人でいる時は片時も離れていたくないし、いつもオレの目と手の届く所にいて欲しい。そうやって、イルカ先生を感覚全てで捉えていたいといつも思っている。

今まで誰かをこんな風に求めた事が無かったから、自分の執着の強さに不安を感じなくはないけれど。

ピピピピ、と、洗濯機の洗い上がりの合図が聞こえた。イルカ先生の足音が、洗濯機のある脱衣所へ向かっていく。

ねえ。洗濯物より、恋人へのおはようのキスが先じゃないの?

触れ腐れながら、ふと思った。

もしかして、イルカ先生は、昨夜のあれやこれやを根に持ってたりするのかもしれない。

確かに、半月ぶりのいちゃいちゃだったせいもあって、随分張り切ってしまった自覚はある。でも、無理強いはしていない(つもり)。どの体位も、きちんと同意の上だった(はず)。それに、「もっとゆっくり」とか「むりです」とか「かんべんしてください」なんて言葉は、二人の間ではお約束みたいなもんだから。

よしんばイルカ先生が本気で言ってたとしても、あんな風にオレをきゅうきゅう締め付けて、あんな艶っぽい声であんあん啼かれちゃあ、焦らして誘ってるんだとしか思えないでしょ?

汗やら何やらナニやらで、どろどろになった卑猥な体をシーツにくたりと横たえて、恨みがましい目でオレを見上げて、指一本動かせないなんて、可愛い事を言ってた癖に。

その体を背中から胸に抱き寄せて、しっとりと潤ったその髪に顔を埋めて、彼の匂いに満たされながら、この上なく幸せな眠りに落ちたはずなのに。

目が覚めたら一人なんて、つまんないよ。先生。

 

 

 

「起きたんですか?」

すらりと襖が開き、イルカ先生が顔を出した。髪をきりりと結い上げて、いつもの、やらしい事なんかしたことありません、みたいな姿で立っている。

「起きました。起こされました」

オレは口を尖らせた。

「ごめんなさい、うるさかったですか?」

「そうじゃなくて」

こっち、と手招いた。何ですか、と近寄ってきたその腰を、ぐいと引いて腕に抱きこんだ。

「何で先に起きてるの?」

イルカ先生は、しれっとした顔で笑った。

「体力と回復力には自信がありますから」

「・・・だから、そうじゃなくって」

オレを見返すイルカ先生の邪気の無い表情に、だんだん、説明するのが馬鹿らしくなってきた。

「寝ましょ」

オレに言葉に、イルカ先生は眉を吊り上げた。

「駄目ですよ、やらなきゃならない事が沢山あるんですから」

「どうせ掃除と洗濯でしょ?手伝いますから、後にしましょうよ」

だめです、とイルカ先生はオレの手をぱしりと払って立ち上がった。

「そのシーツも洗いますから、さっさと起きて、顔洗ってきて下さい」

何なの?その言い方。

「いや」

悲しくなって、オレはイルカ先生に背を向けて、布団に潜り込んだ。

「たまには、オレのいう事聞いてくれたっていいじゃない」

カカシさん、と零れたため息交じりの声に、よけい腹が立つ。

「いっつもいっつも、オレばっかり余裕なくって。うまいことあしらわれて。イルカ先生がオレに溺れてくれるのがセックスの時だけなんて、悔しいじゃない」

たまには、他の事なんか考えられない位、オレだけになってみてよ。

暫くの沈黙の後、背中側の布団が持ち上がったのを感じた。ひやりとした空気と共に布団の中に入ってきた温かな体温が、オレの背中を包み込んだ。

「カカシさん」

回された腕が、オレの胸で組まれた。腕に篭った力が、オレを甘く拘束した。

「・・・セックスしてない時位、ちゃんとさせて下さいよ」

「・・・・・・」

「そうじゃないと、片時も、あなたと離れてなんていられなくなってしまいます」

どこにも行かないで下さい、なんて馬鹿な事、言ってしまいそうになりますよ。

淡々と紡がれた言葉に、ぎゅ、と肺の辺りが痛くなって、目の辺りが妙に熱くなった。

馬鹿なオレ。

この人は、明日この世から消えてしまうかもしれないオレの全部を引き受けて、それでも笑って側にいてくれる。欲しがるばかりで何も返せない俺に、与えてくれてばかりいる。

その存在以上の幸せがどこにあると思っていたのだろう。

そこにいてくれる事そのものが喜びなのだと、他ならぬあなたに、教えられていた筈なのに。

 

さ、とイルカ先生はオレの肩を軽く叩いて起き上がった。

「起きたんなら、さっさと顔を洗って、朝飯です」

はあい、と返した声が、すこし震えて、情けなかったけれど。

馬鹿なオレは、すぐに大切な事を忘れて、我儘ばっかり言ってしまうけれど。

どうかイルカ先生。

明日も明後日も来週も来年も100年後も。

ずっとずっと永遠に、オレの幸せでいて下さい。

 

 

 

060416

 

 

 

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