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「ライオンって、子供殺すんですってね」 カカシが、ふいにぽつりと言った。 乱れたシーツの上にうつ伏せるその姿は、同じ猫科でも繊細な雪豹だとイルカは思う。 「ライオンに限らず、ハーレム形態の群れを形成している生き物には、そういう傾向があるみたいですよ」 ベッドから起き上がると、イルカは乱れた黒髪を乱雑に結い上げた。つい数分前までの情事の余韻が、その真っ直ぐな背中に刻まれた傷の、血色の赤みに残っている。 「ボスが代替わりすると、新しいボスは、先代の子供を殺して雌に発情させるそうです」 どこかで見知った知識を伝えれば、 「・・・凄まじいですよね」 カカシは、何故か悲しげに呟いた。 雄は、己の遺伝子を残す為に、他の遺伝子を殺し。 雌は、より強い遺伝子を受け継いだ子を産む為に、腹の子まで流す。 「それが、種を維持していく為には最も効率のよい方法なんでしょう」 イルカの言葉に、カカシは枕に顔を埋めた。 「それが、生き物として正しい姿なんですよね」 「・・・・・・」 「じゃあ、オレ達がやってる事って・・・やっぱり無駄なんですかねぇ」 くぐもった声に、何度も自問自答した迷いが見える。 まるで飢えているように、乾いているように、互いの存在を求めずにはいられない。この激しい気持ちが、嘘だとは思わない。 ただ、どれ程求め、昂ぶっても、吐き出す先が同じ性の体ならば、自問の深淵を覗き込まずにはいられない。 この行為の後に、何が残る? この想いはあなたに、何を残せる? あなたを求める以外に、この両手で何ができるのか、見えぬ答えに、惑っている。 「・・・まあ、そういう論理で言うなら、無駄なんでしょうね」 イルカがあっさりと答えると、まるで虚ろを覗き込んでいるような顔でカカシはため息をついた。 「でも、俺は思うんです。カカシさん」 ベッドに腰をかけ、見上げてくるカカシの視線を感じながらイルカは言った。 「人と動物との一番の違いって、自分の遺伝子以外の何かを、後に残せるって事なんじゃないでしょうか」 それは。言葉であったり、想いであったり。文字であったり、感情であったり。 自分が存在していたそれ故に、この世に生れ落ちた何物かが、自分が去ってしまった後にも残り、受け継がれてゆく。 「・・・俺は、三代目の子供でも孫でもないから、その遺伝子は受け継いでいません。けれど、三代目が残してくれた木の葉の炎は、ずっと、俺の心に灯っています」 そういう事でしょう? そう言って笑うイルカを、カカシはどこか切なげな眼差しで見返した。 ねぇ。 あなたを失えば、真っ直ぐ立っていることも出来ない程、あなたという存在はこの心に深く刻み付けられてしまっているのです。 この痛みが、苦しみが、何よりも大きな愛おしさが、きっと。 あなたが残してくれる、永遠という名の遺伝子。 080205 |
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