「写輪眼のカカシも、大した事ないよな」

混雑を見せ始めた午後の受付、慰労の笑顔と慣れた手際で列をさばくイルカの耳に、その声は入ってきた。順番に並んだ忍達の向こう側にいるらしく、声の主の姿はイルカから見えない。ただ、やたらよく通る男のだみ声だけが、雑談さえ静まった受付の中に響き渡る。

「あいつ、部隊長の癖に、隊には殆どいなくてさ、実働指揮はおれが執るしかなかった訳よ」

話相手の返事は聞こえず、男の声が更に大きくなる。

「何してたかなんて知らねぇよ。あいつがいなくたって、任務はちゃんと遂行できてた。それを途中から割り込んで来て、作戦変更とか言いやがる。もう少しで敵の本拠地をぶっ叩けるって時だったから、ほんと、コイツ馬鹿じゃねえのって思ったよ」

ひゃっはっは、と掠れた笑い声が上がる。

「理由を聞いても、のらりくらりとはっきりしねぇし。上官がいくら馬鹿でも、部下は従うしかないからな。その後すぐに敵が降伏してきて、ほんとラッキーだった」

口元は笑みを浮かべたままなのだろうという口調で男は言った。

「ま、殺した敵の数は、断然おれが上だしな」

報告書を捌く手は止めず、浮かべる笑顔も絶やさぬまま、イルカはカカシが赴いた任務を思い出した。

確か、とある国で活動を激化させているゲリラの鎮圧だった。

確かに、敵。ただ、そのゲリラが、現政権の圧政に苦しむ民間人だという事は、周知の事実だ。

「一番腹立つのは、五代目の前では任務の成功は自分の手柄みたいな顔をしてるって事だよ。里の誉れだか何だか知らないけど、単に、上にゴマ擦るのが上手いだけじゃねえの?」

「お前に、あの人の何が分かるってんだ!」

いきなり叫んで立ち上がったイルカに、まるで海が割れるかの如く、忍達の列が左右に動いた。開いたその先で呆気に取られた表情を浮かべるのは、イルカの知らぬ顔だ。恐らく長期の里外任務が主の忍なのだろう、古びた忍服が針金のような体を包んでいる。

この任務にあたり、カカシは二つの報告書を提出していた。一つは、公の資料に記載されるもの、もう一つは、火影と、限られた人間しか見ることが許されない極秘扱いのものだ。

秘された文書に記載されているのは、豊富な地下資源を目当てに現政権への影響力を強めたい火の国が仲介役となり、ゲリラには普通選挙の実施を条件に投降を勧め、現政権には新たな開発資金援助を約束するという、外交上決して表立ってはならない密約だった。

政権側もゲリラ側もそれぞれ一枚岩ではない。本来の依頼主である火の国の意図を汲んで三者の間を取り持つのが、カカシの本来の役割だった。

隊の者にその意図は知らされていないし、知られるべきではない。それは、イルカも十分に理解している。それでも。

「あの人を馬鹿にするのは、他の誰が許しても、俺が許さない」

睨みつけるイルカを見返して、男は頬の痩けた顔に嘲るような笑みを浮かべた。内勤と侮るその表情は、受付では頻繁に向けられるものだ。

「お前、何?」

蔑みを含んだ声が言った。

「受付が、写輪眼のカカシと何か関係あんの?」

「あの人は・・・」

イルカは大きく息を吸い込んで、叫んだ。

 

「俺の男だ!文句あるか!」

 

 

 

どうしてその時、見守る忍達から拍手やら歓声やら悲鳴やらが湧き上がったのかは分からない。

人前では色めいた素振りを一切見せないイルカに対して、カカシとイルカが本当に付き合っているのかどうか、イルカに惚れ過ぎたカカシの妄想ではないかという噂が一部に流れていたらしいとか、三度の飯より賭け事を好む五代目を胴元に、二人の関係が賭けの対象になっていたとかいなかったとかいう話も、あくまで噂に過ぎない。

ただ、それから暫くの間カカシは酷く上機嫌で、同じ任務を受ける事の多い後輩のヤマトは、

「先輩が、今までにないやる気で任務を片付けてくれるんで、助かってるんです・・・本当に・・・だから、給料半年分なんて・・・別に、たいした事ないんですよ・・・」

どこか遠い目で、肩をすくめて見せたのだった。

 

 

 

100807

 

 

 

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