襲い受けイルカとチェリーカカシ




「そういう事は、本当に好きな相手とじゃなきゃ、しちゃいけないの」
戦場。
高ぶった忍達にケツを掘られそうになった俺を助けてくれた暗部は、天然記念物だった。


「……あ、ありがとうございます」
這々の体で逃げ出した忍達の姿が見えなくなって、俺は自分が、下半身丸出しの間抜けな格好で草叢に寝転がったままだった事に気がついた。
慌てて起き上がり、剥ぎ取られた忍服を探す。
「慣れてるの?」
藪の中に丸めて放り投げられていたズボンを履いていると、背後から声をかけられた。
「はい?」
「呼吸も脈拍も落ち着いてた。
こういう事、慣れてるの?」
白面に隈取の獣の面。
目の部分に開けられた穴の向こうから、光る眼がじぃ、と見つめてくるのが分かる。
髪の色は銀色、露出した二の腕は月光の中、透き通るように白い。
慣れているというか何と言うか。
俺は言葉を探した。
一介の中忍が上忍の命令に逆らう事は許されない。
上忍が暗部に服従するのと同じだ。
「命令とあれば」
そう答えると、暗部は、酷く傷付いたような顔をした。
面を被っているから表情は見えないが、それが何故か分かる。
「こういう事は、本当に好きな相手とじゃなきゃ、しちゃ駄目なのに」
深刻で切実な口調に、呆気に取られた。
笑えない冗談かもと思っていたが、どうやら本気で言っているらしい。
この人本当に、泣く子も黙る暗部か?忍なのか? 「……もしかして、やった事ないんですか?」
恐る恐る問いかけると、 「ないよ」
暗部はやたら堂々と言った。
「本当に好きな人、まだいないから」
俺の前に立った暗部は、身長は同じ位だが、妙な威圧感がある。
「……オレは、本気で好きになった人としか、しないの」
じ、と面の穴から、光る眼に見据えられた。
あぁ、そうですか。
考えてみれば、暗部が好き好んで男にケツを掘られる必要は無いのだ。
忍としての技量だけで里を守り、里に貢献することができる。
平凡な戦忍の中忍とは違って。
「…………」
胸の奥にもやもやとした黒いものが湧き上がった。
暗部相手に、嫉妬も糞もないと分かっているけれど。
「一度、試してみられてはいかがですか?」
どこか自棄のような気持ちのままに、口にしていた。
「……え?」
「経験が無いから神聖視しているだけだと思いますよ。
やってみれば、こんなもんかって感じですよ、きっと」
「……な、何言ってんの?」
暗部は、こちらが驚く程にうろたえた。
何故か、首元が赤く染まっている。
「何なら俺が相手しますよ。
男ですから、ノーカウントって事にすれば」
あははははーと、笑って付け足した。
暗部の初々しい反応に、溜飲が下がったような気持ちになって、俺は、やたら体を固くして俺を凝視する暗部から目を逸らし、空を見上げた。
月が、そろそろテントに帰らないといけない時刻だと教えてくる。
自棄ではあったが、冗談だった。
本気で、本当に、冗談のつもりだった。
「……いいよ」
暗部が、ぽつ、と言った。
俺は空から暗部に視線を戻した。
「はい?」
「だから、いいって」
「何がですか?」
「やってあげるって、言ってんの」
「……はぁ?」
話の流れからすると、暗部がやってやろうと言っているのは。
「何言ってるんですか!」
仰天した俺に、暗部は、何故か胸を反らした。
「喜びなさいよ、オレの初めてをあげるんだから」
「いらねぇよ!」
思わず叫んだ俺の腕が、暗部の鉤爪に掴まれた。
「……ちゃんと、責任取ってよね」
穴の向こうで、瞳がきらりと光った。


そして5年。
童貞で身持ちの固い暗部という天然記念物は、何故だか今も、俺の隣で眠っている。





kiruku☆様 ありがとうございました!

2010.06.06

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