「イケメンイルカと乙女カカシ」




こがらし。こがらし。さむいみち。
宵闇迫るアカデミー、その門の袂に、一人の男が立っていた。
「こんな所で何やってんだ」
その猫背の姿に、アスマは声をかけた。
「イルカ先生待ってるの」
手の中の愛読書からちらりと眼をあげて、カカシは答えた。
「中で待てばいいだろ」
晴れ渡った昼間からぐっと気温が下がっていた。強い北風が、カカシの髪を揺らしている。
「邪魔になるでしょ。先生が気にしちゃう」
里の誉れと呼ばれるカカシは、良くも悪くも目立つ存在だ。カカシの思惑とは別に、余計な配慮が働く事も稀ではない。
「イルカは、お前が待ってるの知らないのか?」
「残業になりそうだから、先に帰ってて、って言われたの」
そして、カカシは、うふ、と言わんばかりに、その美しい眼をそっと細めた。
「ここで待ってたら、少しでも長く先生と一緒にいられるでしょ」
・・・相変わらず寒い。アスマは、ため息と同時に煙を吐き出した。
カカシは本当にもてる。胡散臭さ全開の額宛と口布を外せば、息を飲む程に端正な造作の顔が現れる。忍としての実力も相俟って、性別関わらず、その気を惹きたいと願う者からの引く手は数多だ。
しかし、そういう輩にカカシは全く興味を示さない。「イルカ先生といると心臓が壊れそうになって困る」と真顔で言うその思考回路が、三十路男にしては少々特殊な事を知っているのは、子供の頃からの腐れ縁で繋がる同じ上忍仲間位のものだ。
と、カカシが弾かれたように顔をアカデミーの建物の方角に向けた。
まるで、忠犬が飼い主の足音を聞きつけたかのように、纏う気配が一気に明るく浮き立つのが、あからさま過ぎて面白いくらいだ。
玄関から歩いて来たのは、アカデミーの教師であるうみのイルカだ。受付業務も兼業する多忙な男は、カカシが身も心も捧げている相手でもある。
「こんばんは。お疲れ様です、アスマさん」
「おう。お疲れ」
にこりと朗らかな笑みを浮かべてアスマに挨拶したイルカは、カカシに向けて更に笑みを深めた。
「待っててくれたんですか?」
ううん、とカカシは首を振った。
「丁度オレも任務終わったとこだから」
嘘をつけ。唇の端から煙を思い切り吹き出したアスマには目もくれず、カカシはにこにことイルカを見返した。
その頬に、イルカが手をあてた。
「・・・随分冷たい」
窘めるように低くなったイルカの声に、カカシが、はっと俯いた。
「こんなに冷えて。どれくらい待っててくれたんです?」
「待ってません」
カカシは往生際悪く首を振った。
「今来たばかりですから」
「本当に?」
重ねられた問いに、カカシは俯いたまま、小さな声で、一時間位と呟いた。
「・・・困った人ですね」
イルカのため息に、カカシがびくりと肩を揺らした。
「ごめんなさい・・・」
イルカは巻いていたマフラーをほどくと、カカシの首にかけた。
「ダメ。先生が冷えちゃう」
慌てたカカシに構わず、イルカはくるくるとマフラーをカカシに巻きつけた。
「カカシさんに、風邪をひかせたくないんです」
「大丈夫。オレ頑丈ですから」
「そういう問題じゃなくて」
普段は鋭い眼光を柔らかく緩めて、イルカが言った。
「カカシさんは、俺にとって何より大切な人ですから。大事にして、甘やかしたいんです」
大きく眼を見開いたカカシの顔が、耳まで赤く染まる。
「待っててくれて、嬉しいです。少しでも、カカシさんと一緒にいたいですから」
そして、
「帰りましょうか」
差し出された手を、感極まった様子でカカシは両手で握った。
「そんなにしたら、歩けませんよ」
イルカが苦笑して、カカシはごめんなさい、と更に赤面した。
「先生は、晩御飯何が食べたいですか?」
「カカシさん疲れているでしょう?どこかで食べて帰りましょう」
並んで歩き始めた影が、寄り添って伸びた。


・・・ま。本人達がよけりゃ、別にいいんだけどな。
取り残されたアスマの口からこぼれた煙は、木枯しにくるりと舞って、溶けて消えた。






コカ様 ありがとうございました!

2010.11.21

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