「術のせいで年の差逆転し、イルカ先生で大人の階段上るカカシさん」




あなたの過去にまで嫉妬していると知ったら、あなたは呆れますか?

「・・・四代目は、もういないんだよね」
それが、綱手の治療から目覚めたカカシが、最初に口にした言葉だった。
「・・・はい」
枕元で頷いたイルカを見上げ、そう、とだけ呟いて、カカシは再び眼を閉じた。
その短い言葉を、どんな思いで口にしたのか、読み取れない自分がイルカは悔しかった。

「あんた、嘘ついたね」
翌日、イルカとカカシは住まいに戻った。
元々イルカが一人で住んでいたアパートに、カカシが転がり込んで来た部屋だ。鴨居に二つかかったベスト、窓から見える物干し台には二人分のアンダー。窓際で陽光を浴びるウッキー君、ベッドサイドに置いた写真立てには、笑顔の四代目と、三者三様の子供達が映っている。
「あんたとオレって、できてたんじゃない」
小さなベッドに二つ並んだ枕を見ながら、いつもより僅かに高く、どこか透明感を感じさせる声で、カカシが言った。頭半分低い位置からイルカを見上げる視線に、感情の動きは見えない。
任務中、カカシは、肉体と精神が逆行するという敵の術中にはまった。
術者は拘束し、任務は完遂している。然程難しい術では無く、解術を行った綱手は、時間が経過すれば元に戻るだろうと見立てていた。
細くしなやかな容姿とカカシ自身が語る記憶から判断するに、今のカカシは九尾の厄災を乗り越えた年齢だ。
「・・・・・・」
返答に迷って、イルカは思わず眼を伏せた。
解術されるまで病院で過ごすという選択肢もあったが、カカシの病院嫌いは子供の頃からの筋金入りらしい。
上忍用の宿舎で一人で過ごさせる訳にもいかず、結局、イルカの看護の下、自宅で療養することになった。
歳若いカカシを混乱させないようにと、イルカは綱手と示し合わせて、ただの同居人だとカカシに紹介して貰ったのだが、聡い少年は感じ取ってしまったらしい。
「何で黙ってるの?」
カカシの声が僅かに尖った。
「嘘ついたのは、本当は、オレとの事無かったことにしたいから?」
「違います」
予想外のカカシの言葉に、慌ててイルカは首を振った。
「その・・・今のあなたがどう感じるのかが、不安で」
カカシの灰色の眼が、じっとイルカを見つめてくる。見透かされそうなその強さに、イルカは怯む。
「同性同士ですし・・・その・・・」
「多分」
遮るように、カカシが言った。
「未来のオレは、あんたの事が心底好きなんだろうね」
この部屋とあんたを見てたら、何となく、そんな気がする。
そう言って、カカシは、腹減った、と台所へ向かった。
その横顔が、僅かに赤く染まっているのが見間違いでなければいいのにと、ひっそりとイルカは願った。


ベッドをカカシに譲り、床で寝ようとしたイルカに、 「やることやってたんだから、今更取り繕う事ないでしょ」
カカシはにべもない。
いつもは互いに寄り添って眠るベッドは、仰向けに真っ直ぐ横たわると少々手狭だ。
「・・・いつも、こんな感じなの?」
天井を見上げたまま、カカシが言った。
「こんな?」
「飯喰って、風呂入って、適当にしゃべって・・・寝る」
「そう、ですね」
変わり映えの無い日常だ。
里の為に命を懸けて戦うカカシとの、かけがえの無い、何よりも愛おしい日常だ。
「そう」
その短い言葉には、一体どんな思いが込められているのか。
「・・・ま、悪くはない、かな」
呟くようにカカシは続けた。
「え?」
「先生・・・四代目がいなくなって・・・どうやって生きていったらいいのかよく分からなかったけど」
こういう未来が待ってるなら、悪くない。
そう言って、カカシは肘をついて体を起こした。少年の柔らかさと、青年期を迎えつつある精悍さが同居したその面差しが、真摯にイルカを見つめてくる。
「あんたは、オレの最後の男なんでしょ」
だから、と、カカシは、囁くような小さな声で、しかしはっきりと告げた。
「オレの、初めての人にも、なってよ」
幾許かの逡巡の後、頷いたイルカに、カカシは初めて、はにかんだような美しい笑顔を見せた。


カカシさん。
決して関わる事のできないあなたの過去にまで嫉妬していたと知ったら、あなたは呆れますか?
思い出の中だけにある人達に勝つことは絶対にできない。
俺が知らない、過ぎ去ってしまったあなたの時間は、絶対に巻き戻せない。
その絶望が分かりますか?
こうして幸運にも、あなたの過去の心に触れる機会を得て、俺は、純粋なあなたに、俺という存在を刻み込みたいと願っています。
その罪深さに戰きながら、同時に、目も眩むような激しい喜びに満たされているのだと知ったら、あなたはどう思いますか?





E子様 ありがとうございました!

2010.11.21

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