「まったり休日カカイル」「お留守番カカシ」




夢も見ない深い眠りから目覚めると、枕元の目覚まし時計は、間もなく昼を指そうとしていた。
ベッドから起き上がって、カカシは一番に壁のカレンダーを眺めた。近所の電気店が年末に配っている風景写真が入ったもので、日付の枠には、イルカの仕事の予定が書き込まれている。
今日のイルカは、アカデミーだけで上がりのようだった。
しかも、明日は二人揃って休みだ。
うきうきとした気持ちで、カカシはベッドからシーツを引っ剥がした。昨夜、任務上がりの埃まみれのままベッドに潜り込んでしまったのだ。起こしてしまうのは申し訳ないという配慮も浮かばず、兎に角イルカに触れたくて、眠っている彼を腕に抱き込んだ。
目覚めた彼が、眠気と優しさでぬるまった声で、お帰りなさいと囁く声を聞いて初めて、里に戻って来られたと心底安心して、泥のように眠れるのだ。
汚れものをまとめて洗濯機に突っ込んで、洗い上がるまでにシャワーを浴びて、軽く腹ごしらえをする。冷蔵庫の中には、納豆と漬け物、鉢に入った芋の煮物が入っていた。炊飯器には米、鍋には味噌汁が用意されている。イルカは何も言わないが、一人だと面倒がって兵糧丸で済まそうとしてしまうカカシの為に、いつも、すぐに食べられるものを準備してくれている。
「いただきます」
手を合わせ、感謝を口にするのも、イルカと暮らし始めて改めて染み込んだ習慣だ。
食べ終わった食器を片付けていると、洗濯機の洗い上がりブザーが聞こえた。
爽やかな青空の下、ベランダで籠一杯の洗濯物を順に干して行く。風があるから早く乾くだろう。はためく白いシーツを眺めながら、また今晩ぐちゃぐちゃにしてしまうかもしれないと思い、カカシは浮かんでくる笑いを噛み殺した。実際、昨夜も1ヶ月ぶりのイルカの匂いに邪な昂りを感じなかった訳ではない。手を動かすのも億劫な程の疲労さえなければ、イルカの味を存分に楽しみ、その内側に深く潜り込んでいただろう。
部屋に戻って、荷物の整理と忍具の手入れを始めた。何時呼び出されても対応できるように、装備はいつも万端に整えておく。
消耗品の補充を口寄したパックンに頼んで、仕込みの符と巻物を確認し、クナイと忍刀を研いでいく。専門の鍛冶屋に任せることもあるが、砥石に向かって無心になれるこの時間がカカシは気に入っていた。
荷を整えた後は、温かいコーヒーを淹れて、ゆっくり愛読書を開いた。イルカの部屋にある優しい時間が、昨日まで血みどろの戦場で敵を屠っていた薄暗い猛りの、最後の残滓を流して行く。
太陽が西に傾く頃には、物干し台の洗濯物はちゃんと乾いていた。取り込んで、シーツはベッドにかけ、衣類は手早く畳んで箪笥に片付ける。
時計を見れば、ちょうど良い頃合だ。
「さて」
家を出る支度をする。忍犬達の様子を見に言った後、イルカを迎えに行くのだ。
帰りはいつもの居酒屋で夕飯にしよう。
そして、今晩は、昨夜できなかったあれやこれやをイルカにお願いするのだと、カカシはそっと口元を緩めた。



「あの子、絶対イルカ先生の事好きですよ」
店を出て、商店街を南へ歩き始めた途端、隣のカカシが低く言った。
「あの子って誰ですか?」
「さっきの巻物屋の、店員の女の子です」
不機嫌を滲ませたカカシの言葉は、イルカが意識しながらも余り考えないようにしていた事だった。
「……あー」
頭を掻いたイルカに、
「うわ、酷い!」
カカシは足を止めて拗ねたように唇を尖らせた。口布に隠れているが、イルカには分かる。
「オレというものがありながら!浮気ですか!?」
冷静沈着な上忍らしからぬ思考の飛躍に、何言ってるんですか、とイルカは苦笑した。
二人の休暇が重なるのは本当に久しぶりだった。
一ヶ月に渡る戦場での任務明けだ。家でゆっくり体を休めて欲しいと思ったイルカだが、カカシはイルカの買い物に付き合うと言い出した。
二人で昼食を取った後、薬屋、鍛冶屋、と回り、最後に訪れた巻物屋は、公用私用合わせればイルカが週に一度は訪れる店だ。
「じゃあ、告白されたらどうするんですか?」
不穏なものを漂わせながら迫ってくるカカシに、
「まぁ、可愛い子ですし、悪い気はしませんよね」
と返したものだから、カカシはぎゃあと叫び出さんばかりだ。
「可愛いって何ですか!オレが変化した方が、絶対美人にできますって!」
「そりゃあ、そうでしょうね」
「酷い!」
「他人の気持ちをどうこうはできないでしょう」
ただ、とイルカは笑う。
「大切に付き合っている人がいるので、気持ちに応じる事はできないって言いますよ」
それだけは、誰になんと言われても、譲れませんから。そう続けて、イルカは歩き出した。
昼下がりの商店街は、梅雨の晴れ間という事もあって、大勢の家族連れやカップルが行き交っている。
両親に囲まれて笑顔を浮かべる子供の姿に唇を緩ませながら歩いていると、数歩遅れて、カカシが隣に並んだ。
「オレは幸せ者ですね」
カカシが呟いた。
「世界で一番好きな人に好いて貰えるだもん。こんな幸運、そうそうないでしょ」
イルカは前を向いたまま、
「……晩飯の材料買って、帰りましょうか」
そっと。
荷物を持っていない方の指を、互いに絡ませた。





T口様 ありがとうございました!

2010.06.07

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