カカイルに挟まれるテンゾウ(ヤマト)




古びた玄関扉の向こうで、イルカは目を見開いた。
「テンゾウさん」
「こんばんは」
律儀に頭を下げたテンゾウは、用意していた謝罪を口にした。
「申し訳ないのですが、先輩は、今日来られません。急に、任務が入ったそうです」
ほんの僅かイルカの眉が下がったのを、気付かなかった振りをする。
「本当に申し訳無いと、そう伝えて欲しいと言付かりました」
すぐにイルカは表情を緩め、 「分かりました。わざわざありがとうございました」
「それでは、失礼します」
くるりと背を向けたテンゾウに、あの、と声が掛かった。
「今からお時間ありませんか?」
「え?」
振り返ると、イルカが、にかりと歯を見せて笑っていた。
「晩飯、良かったら食べて行って頂けませんか?」

古びたちゃぶ台には、天板から落ちそうな程の料理が並んでいた。
刺身やら練り物やら、サラダやら焼サンマやら煮物やら、とりとめの無い献立は至って普通だが、とにかく品数が多い。
「さ、どうぞ」
勧められたらのは、恐らく、普段カカシが座っている場所だ。テンゾウは一瞬迷い、座布団を外して腰を下ろした。
「今日は、記念日か何かだったんですか?」
二人の誕生日でない事は確かだ。ただの夕食にしては豪勢な気がするし、式を飛ばす余裕が無かったと言え、わざわざテンゾウに言付けを頼むのを、少し不思議に思っていた。
「まぁ……そんなもんです」
台所で答えたイルカが、ビール瓶とグラスの載った盆を運んできた。ビアタンブラーは手に持つとひんやりと冷たい。互いに注ぎ合って、遠慮し合いながらがちりとぶつけ合う。
「お口に合うといいんですが」
促されて箸を持った。
「いただきます」
「後で、白い飯と味噌汁も用意しますね」
いいんだろうか。庶民的だが申し分の無い味の料理を口に運びながら、テンゾウは落ち着かない。カカシはどんなつもりで言付けを頼んだのだろう。こうして向かい合わせで食事を取るのも込みなのだろうか。
テンゾウの不安をどう取ったのか、 「あの人、記念日好きなんですよ」
イルカが話し始めた。
あの人、というのは言わずもがな、テンゾウがただ一人先輩と敬う、そして、イルカの恋人であるはたけカカシだ。
「お互いの誕生日とか、クリスマスとか正月とか、やたら祝いたがるんですよね」
でも、とイルカはどこか困ったように笑った。
「約束しても、当日一緒にいられた事がなくて。任務だから仕方ないと俺は言うんですが、やたら気にするんですよね、あの人」
「…………」
「それで、任務が入りそうにない、確実に休めるであろう日を、記念日にしてしまおうと言い出したんです。何を記念にするかは適当に決めて。ちなみに今日は初めて……まぁ、それは置いておいて」
俺は記念日なんてどうでもいいんですが、とイルカはあっさり笑った。
「俺は、あの人が無事に戻ってきてくれれば、それでいいのに」
他に欲しいものなんて、何もないのに。
「心配する事なんて何もないのに、何だか可愛いなぁと、思ってしまうんですよ」

どうしてカカシがテンゾウに言付けを頼んだのか、分かった気がした。
どうやらカカシは、先日テンゾウが言った事の意趣返しをしたいらしい。
一緒の任務中、自分がどれ程イルカに惚れているか、イルカがどれ程自分を大事にしてくれるか、やたらめったら惚気られるから、 『任務任務で、いつも一人で放っておいてるんじゃないですか?そんなんじゃ、浮気されちゃいますよ』 つい、意地悪を言っただけなのに。
はいはい。こっちでもちゃんと、惚気られちゃいましたよ。
ってか、記念日好きって、どんな乙女ですか。
尊敬する先輩の、意外な一面を知って、テンゾウは唇を緩めた。
料理はとても旨かった。そうカカシに言ったら、きっと、殴られる。





チコ様 ありがとうございました!

2010.06.07

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