「片思い」




「あれ?」
「こんにちは」
二人がばったり会ったのは、里の若い娘やくノ一で賑わう甘味処の前だ。30前後の男には少々気恥ずかしい店構えに、イルカは鼻の頭の傷を掻き、カカシは更に猫背を深くした。
「友人と待ち合わせなんです」
「オレも、紅と」
譲り合いながら店に入ると、
「あ、イルカ」
「こっちよ、カカシ」
窓際の席に向かい合わせに座った美女が二人、手を振っていた。

「紅さんて美人よねぇ」
ほう、とため息混じりに言う隣の美女に、イルカはそうだな、と俯き加減に返した。
甘味処を出た二人は、並んで商店街を南へ向かっていた。
「はたけ上忍と待ち合わせだなんて、二人、付き合ってるのかしら」
「・・・さぁ」
冴えぬ返事に、美女は眉を下げた。イルカの幼馴染で、アカデミーの同級、下忍の時は共にスリーマンセルを組んだ彼女とは、彼女が特別上忍となった今でもまるで姉弟のようだった。
「そんな顔しないでよ」
「分かってるよ」
イルカは小さく噛み締めるように言った。
「叶わないって、最初から、分かってる」
「そうじゃなくって」
美女はイルカの前に回りこむと、腰に手を当てて、びしりとイルカを指差した。
「ウジウジしないでって言ってんの。告白もしないで、悩んでるだけなんて時間の無駄」
「無茶言うなよ」
イルカは鼻先に突きつけられた桜色の指先に仰け反りながら苦笑した。はっきり白黒つけたがる彼女の性格は子供の頃から変わらない。
「はたけカカシだぞ。写輪眼のカカシ。木の葉の誉れだ。男同士だからとか俺が中忍だからとかいう以前に、手が届かないっていうか、恐れ多い」
「でも好きなんでしょ?」
ぐ、と唇を引き結んだイルカの表情に肯定を見て、玉砕覚悟で気持ちを伝えたらいいじゃないと背中を叩く。
「だから、無茶言うなって」
「じゃあさっさと諦めて、次行きなさいよ。もっと周囲に目を向けて。イルカは鈍くさいから気付いてないかもしれないけど、結構モテてるんだからね」
「・・・それができたら苦労しないって」
心配なの、と美女は、真っ直ぐにイルカを見上げた。
「私と彼が結婚して、二人で任務に出てしまったら、イルカが一人になっちゃう」
彼女の夫となる男もイルカの同窓で、三人は同じ上忍師の元で苦楽を共にしてきたのだ。結婚した二人は共に他国で草の任務に就く。確かに寂しくはあるが、これ以上喜ばしい事はない。
「馬鹿を言うな」
イルカは、自分の肩の高さにある小さな彼女の頭を撫でた。ふいに、彼女の身長を追い越した子供の頃を思い出して、胸の奥が優しく疼く。
「俺は大丈夫だから、お前らは絶対幸せになれよ」
「あのくノ一?」
紅は、アイスコーヒーに刺さったストローから美しい唇を離して言った。
「イルカとはアカデミーの同級生で、下忍の時も同じ班だったみたい。知り合いって訳じゃないけど、前に同じ任務に就いたことがあって、彼女から私に声を掛けてくれたのよ」
なかなか有能よ、と続けた後に、僅かに目を細めて、
「イルカと付き合っているかどうかは、知らないわ」
向かい側にだらりと座ったカカシは、指先でテーブルをコツコツと叩いていた。苛立っている時の癖だと、紅はそう短くはない付き合いの中で知っている。
「イルカに、聞いてみてあげましょうか?」
「いいよ」
じろりと音がするような視線は、並の忍なら震え上がるだろうが紅には通じない。
「別に遠慮しなくたっていいのよ。ボンベイ1ケースで手を打ってあげる」
「いいって。第一、それが分かったからってどうなるもんでもないし」
一瞬きょとんと目を見開いた紅は、軽やかな声を上げて笑った。
「まぁ、そうね。どっちにしたって告白する勇気なんかないもんね」
「・・・煩いよ」
腕を組んだカカシは、窓の外を見遣った。夏の日差しが照りつける昼下がりの商店街は人影もまばらだ。
「何をそんなに怖がってるの?」
口調は軽いが、紅の目はもう笑ってはいなかった。
「男同士だから?イルカには偏見なんか無いわよ。それとも階級が気になるの?確かにあんたは上忍の中でも特別だけど、それは誰にとっても同じでしょう?」
「オレの事はいいから。行こう。アスマが待ってる」
カカシは伝票を持って立ち上がった。
「ちょっと、カカシ」
口は悪いが、紅が心底心配してくれているとカカシには分かっていた。決して恋愛感情にはなり得無いが、優しい良い女だと思う。 「怖いのは、自分自身」
「え?」
「告白なんかしちゃったら、もう歯止めきかないよ」

お互いに、一方通行と思う、恋心。





ねここ様 ありがとうございました!

2010.07.11

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