春シヌ恋

 

 

 

「ねぇ、カスガ」

あなたは、狐面の向こうで言った。

「あんたを抱いてあげるぐらいは、いつでもできるんだけど」

 

 

 

私が欲しいのは、そんなものじゃない。

分かっていて、あなたはそんな残酷な事を言う。

 

 

 

「ご苦労」

深夜の火影執務室。まだ、血の匂いの乾かない体のまま、報告に訪れる。火影の前でしか外せない暗部の面。

「カカシ、体の調子はどうじゃ?」

あなたは、三代目の問いに肩をすくめた。

「もう、全然。大丈夫ですよ」

カスガ、と呼ばれて、私も口を開いた。

「はい。完治とはいえませんが、任務の遂行には支障はないと思われます」

オレって信用ないのね、とあなたは呟き、三代目は、自業自得じゃと苦笑した。

弥勒平原で、敵の血反吐の中に倒れているあなたを見つけたのは私。

駆けつけてきた暗部の死体処理班を怒鳴りつけて、あなたを里に連れ帰らせたのも私。

あなたが目覚めるまで、寝ずに看病したのも私。

再び暗部に戻ったあなたを追いかけたくて、三代目に直訴した。

今は、あなたと並んで、暗部の面をつけている。

「時に、カカシよ。お主、本当に上忍師になるつもりがあるのか?」

上忍師?私は思わずあなたの顔を見た。里の下忍の教育係を、この人が?

「お主は、本来暗部を引退した身じゃ。本気なら、里に身分を戻すのが、筋じゃが」

「誰でもいいわけじゃないですよ。オレの眼鏡に叶う奴等なら、上忍師になってもいいってだけ」

つまり、と三代目は言った。

「見込みのある子供に当るまでは、暗部預かりのままでよいと?」

「少なくともあと2年は、ね。四代目との約束がありますから」

 

 

 

任務で里を離れる前と後、あなたが必ず行くところがある。

住宅街にある小さなアパート、その2階の中の部屋。その窓を見上げる事ができる路地に、あなたはそっと立ち尽くす。

誰の住まいか、問わなくても分かっている。

部屋を訪ねる訳ではない。ただ、明かりが灯っている事を確認して、しばらくその灯を見つめて、帰る。それだけ。

気配を消したあなたの存在に、あの中忍は気付いていない。

その程度なのに、ずっとあなたの心を持っているだなんて。

本当に、心底、腹が立つ。

 

 

 

1年、2年。

あなたの想いは、静かに積み重なる。

その年の下忍選抜にも、合格者を出さなかったあなたは、長期遠征の部隊長に志願した。

「あの中忍のところに、行かないんですか?」

2年経ったらって、約束をしていたでしょう?驚いて言った私に、あなたは答えた。

「まだ、駄目だから」

え、と私は首を傾げた。

「きっと嫌われてるからね、オレ。嫌いだって言われても、それでも、ちゃんと辛抱強く待てる自信が、まだ無いから」

何?それは?

「無理矢理なんて、昔の二の舞でしょ?」

穏やかな笑顔。それほどまでに。

「・・・あなたにとって、私は何ですか?」

言ってはいけないと思っていた言葉が、私の口からこぼれ落ちた。

「命の恩人。あの人を、戦場から連れ出してくれた」

違う。私は、あなたの命を救った。頭を振った私に、あなたは言った。

「オレには、あの人より、大事なものなんてないよ」

 

 

 

その時に、私の恋は死んだ。

優しいあなた。私を傷つける方法も、利用する方法も、いくらでもあったのに。

ずっと突き放してくれていたのに。それを認めたくなくて、追いかけ続けた私。

私の手には、三代目の名の入った命令書。遠い国での潜入諜報活動は、いつ戻れるかも分からない。志願した時の、三代目の表情に、任務の厳しさを思い知る。それでも。

散る桜を見上げながら、私は思った。

最後に、あなたに一つだけおねだりをしよう。

どうか口付けを。

あの中忍の事は5秒だけ忘れて。私の事だけ考えて。そう、口付けをねだろう。

あなたは、きっと困った顔をする。

その顔を見るだけで、きっと私は、とても幸せな気持ちになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

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