Make Me Sick

 

 

 

「カカシさんはずるい」

イルカがぼそっと呟いた。

 

 

 

「・・・ほっんと、うっとうしい男ね」

紅が、心底うんざりした表情で、言った。

「なんて顔してんのよ。やったんでしょ、イルカと」

隣に座っていたアスマが、のんびりと煙草の煙を吐き出した。

上忍控室には、紅とアスマ、そして、もともと口布と額宛で顔を隠していて胡散臭い上、今日は朝から全身に重苦しい空気を纏わり付かせた男、はたけカカシがいた。

「・・・やったよ。昨日の夜」

辛気臭く答えるカカシに、

「よかったじゃない。じゃあ、何でそんな暗いのよ。私はてっきり、天にも昇らんばかりに浮かれまくってると思ったわ」

「だって・・・イルカ先生・・・」

あぁっと、カカシは頭を抱えた。

「・・・・・・すっごく、上手かった」

はあ?と紅とアスマは顔を見合わせた。

そりゃあお前、とアスマが言った。

「別に、おかしかないだろ。イルカだって25の男なんだし。まあちょっと意外な感じはするが」

紅は軽蔑の眼差しを送った。

「どうせ、あれよ。自分は散々遊んどいて、でも恋人は純真でいて欲しいっていう、男のくだらない願望よ」

カカシがぶつぶつと呟いた。

「・・・イルカ先生、男はオレが初めてだって言ったんだ。でも・・・おかしい。100人斬りのこのオレがあんなになるなんて・・・むちゃくちゃ気持ちよかった・・・絶対、何かとんでもない技を使ってるんだ・・・」

頭を抱えながら、アスマが言った。

「一応確認しとくが、お前、イルカをやったの?やられたの?」

「やったの。当たり前じゃない」

「で、思っていたよりイルカが床上手だったんで、ショックを受けていると」

カカシは、きっと顔を上げた。

「オレは、イルカ先生が処女じゃないからイヤなんて思うほど、子供じゃないし、心狭くないよ。男はオレが初めてだって、嘘つかれたのかもしれないけど、それは、もうイルカ先生の言うこと信じるしかないじゃない」

「だったら、何をそんなに落ち込んでるんだ?」

カカシは、ずぶずぶと沈んでいくようだった。

「オレ・・・下手なのかなぁ・・・」

再び、紅とアスマは顔を見合わせた。100人斬りが何を言う。それに、紅は、同僚のくの一から色々な噂を聞いていた。写輪眼のカカシは、忍としてだけでなく、閨の中でも腕が立つ、と。

「オレね、今まで、セックスの最中に我を忘れることなんてなかったの。一応忍だし。でも、昨日は、何か途中から訳分かんなくなっちゃって。気が付いたら・・・イルカ先生が・・・」

「イルカ先生が?」

「・・・カカシさんずるいって・・・・」

話が飲み込めず固まるアスマと、何やら得心顔の紅に、カカシは呟いた。

「・・・オレばっかりよくなって、イルカ先生は気持ちよくなかったんだ、きっと。だから呆れられたんだ・・・」

があっと頭を掻きむしるカカシに、アスマは恐る恐る尋ねた。

「突っ込むだけ突っ込んで、イルカをいかせてやれなかったと・・・?」

「・・・いかせてあげたよ。2回ぐらいまでは覚えてるんだけど・・・」

でも、あんな上手な人だもん。オレじゃ、よくなれなかったんだよ、とカカシは今にも消えそうな声で言った。

何と声をかけてよいものか、思案にくれたアスマの横で、紅は、にっこりと笑った。

「カカシ、あんた、ほんとにイルカの事が好きなのねぇ」

「今更何言ってるの、当たり前じゃない」

私の経験上、と紅は言った。

「相手の事を上手だと思ったなら、それは相手に本気で恋してるからよ」

どういう意味?とカカシは眉をひそめた。

「あんたが、本気でイルカのこと好きだから、イルカのことを上手く感じるのよ。逆に、イルカのことを上手だと思うのなら、それは、カカシ、イルカがあんたに本気で恋してるからよ」

呆然とした顔で聞いていたカカシの目に、生気が戻ってきた。

「でも、ずるいって言われた・・・一人だけ気持ちよくなってずるいって、意味じゃないの?」

それは多分、あんたに対するイルカの口癖よ、と紅は続けた。

「前に一度、あんたの事を聞いたことがあるの。その時も言ってた。カカシさんはずるいって」

「・・・イルカ先生に何を聞いたの?」

「あんたが悩んでたの、知ってたからね。ちょっと探りを入れてみたのよ」

悪びれず、言う。アスマがはぁ、とため息をついた。

「里きってのエリートで、腕がたって、実入りがよくて。性格はぎりぎり及第点だけれど、顔と体はとびっきりよくて。これでセックスも上手かったら、はたけカカシは言うことなしですねって。同じ男としてずるいですよね、って」

つまり、そういうことなんじゃない?と、動きの止まったカカシに紅は微笑んだ。

次の瞬間、どろん、と煙が立ち、カカシの姿が消えた。

アカデミーの方角へ、慌てふためいたチャクラが飛んでゆく。

「・・・イルカが本当にそんなこと言ってたのか?」

煙草を捻りつぶしながら、アスマが言った。

「アスマは気がついてなかったでしょうけど、もともとあの二人は相思相愛だったのよ」

私は背中を押しただけ。

「・・・相手のセックスを上手いと感じるのは、相手に本気で恋をしているから、か」

アスマはちらりと紅を見た。紅は魅惑的な瞳をアスマに返した。

「その意見は、ある女性の受け売りなの。でも私も同感だわ」

「ある女性って?」

「モモカ」

ぎくり、とアスマは目に見えて動揺した。しかし、紅と付き合い始める前に、円満に別れたはずだ。なせ、紅が彼女を知っている?

「くの一の情報収集能力をなめないでよね」

アスマの思考を読んで、紅がくすりと笑った。

「彼女に、どうして、あなたと別れたのか聞いたの。そしたら、同じ事を言われたわ」

好きだから上手くて、上手いから、好き。

ようやく思考が回り始めたアスマに、紅は花のように微笑んだ。

「さ、私達も帰りましょ」

私達も、仲良くしましょ。

 

 

 

完(05.04.16)

 

 

 

山田詠美「放課後の音符」角川文庫 より

この本に十代で出会えた事は私の宝です

アスマ×紅になってしまいました。

 

 

 

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