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「いいよなぁお前らは」 混雑した受付に、男の、揶揄を含んだ大声が響いた。 「こっちが血みどろ汗みどろになりながら、里の為に命削って働いてんのに。お前らは冷暖房完備の部屋で、椅子に座って、書類眺めてりゃ日が暮れるんだもんなぁ」 周囲のざわめきが止まった。視線が、その二人に集まった。 男の前には、黒髪をきちんと一つに括った、鼻に傷のある中忍が座っていた。男は、俯き加減の中忍の顔を覗き込むようにして、隣の下忍が小さく悲鳴を上げるような凄みのある声で喚いた。 「『ここの欄の記入が抜けてます』ってなぁ。それ位黙って書き込むのが俺達外回りへの配慮ってもんじゃねえのかよ。そんな事で、一々煩わせんなよ」 男は、気性が荒いことで有名な上忍だった。中忍の対応が正当なのだが、こうなった以上、返答次第では只では済まない。周囲の危惧と同情の中、中忍は、椅子を引いて立ち上がった。 「言い方がお気に障ったのなら謝ります。申し訳ありません」 中忍は、そう言って頭を下げた。言い訳もせず、繕うような態度も見せず、ただ黙って上忍を見返した。 「・・・なんだてめえ、その態度は」 男の怒気が膨れ上がった。ばち、と音がするような張り詰めた気配が受付に充満したが、中忍は顔色も変えずに言い放った。 「私の言い方が、お気に障ったのなら謝ります。でも、言った内容に関して謝るつもりはありません」 「んだと・・・」 す、と男の両目が細くなった。 危ない。見守る誰もがそう思った。その時。 「はーい、そこまで」 険悪な雰囲気にはまるで場違いな、暢気極まりない声が受付の入り口で上がった。 「居るんだよね。勘違いやろうってさ」 割れた人垣の向こうから現れたのは、写輪眼の二つ名を持つ銀髪の上忍だった。集まる視線に頓着無く歩を進めた銀髪の上忍は、男と、中忍の間に立った。 「いい加減にしなよ。ま、知らなかったんだろうから、今回は見逃すけど」 口調は軽い。だが、銀髪の上忍が言外に放つ迫力に気圧されたように、男は一歩下がった。 成り行きを固唾を飲んで見守る周囲を、銀髪の上忍はぐるりと見回した。 「ここにいる奴全員に言っとくけど。ルールは、ちゃんと守ってね」 そうだ、と面々は頷いた。規則が、横暴によって曲げられていいはずが無い。 そして、銀髪の上忍は、中忍の肩を抱いて高らかに宣言した。 「この人をね、苛めたり、泣かしたりしていいのは、オレだけだから」 「・・・はあ?」 中忍と男から、異口同音に声が上がった。 なんですかそれは。 そういうことですかそれは。 冷えて固まる空気の中、わなわなと全身を震わせた中忍が、銀髪の上忍の頭を、渾身の拳骨で殴る音が響いた。 受付の入り口で、やり取りを見ていた髭の上忍が、溜息と同時に煙草の煙を吐き出した。 「勘違いやろうはどっちだ?」 060504 ブラウザを閉じてお戻りください |
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