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「カカシ君は顔がいいからねぇ」

吹く風に金色の髪をなびかせて、先生はあっけらかんと笑った。

「将来、そっち方面で不自由する事はないと思うけど、一つだけ覚えておいてね」

大切な事、と、先生は少し表情を改めて、オレの顔を覗き込んだ。

「カカシ君にとって本当に価値がある人は、きっと、皮一枚の美醜になんか拘らないんだ。そして、カカシ君が忍としてどんなに強くなっても、他の皆にどんなに誉めそやされて尊敬されても、その人の前では全然意味がない事を、カカシ君は知ると思うんだ」

そういう人に出会ったら。

そう言って、先生はもう一度にこりと笑った。

きっと、カカシ君は。

 

 

 

久しぶりに、先生の夢を見た。

ただ強くなりたくて、がむしゃらに走り続けていたあの頃。愚かで、子供で、護られて、赦されて、今とは違う意味で満たされてもいた頃。

あの頃は意味が分からなかった、先生の言葉。

今なら分かる。

嫌という程、思い知らされている。

 

 

 

夕方の受付は、相変らず混雑していた。

特にあの人の前には、何時ものように長蛇の列ができている。

最初は単純に、仕事が遅い人だと思っていた。

でも、少し観察して気付かされた。同じ時間内であの人が捌く人数は、別の受付の奴よりも格段に多い。ただ、それ以上に、あの人の前に並びたがる奴が多いから、列が長くなってしまうのだ。

その理由を思って、オレはいつも、面白くない気持ちになる。そして、あの人にとっては、オレもその大勢の一人に過ぎない事に、悲しい気持ちになる。

「お疲れ様です」

きりりと結い上げた尻尾のような髪を揺らして、今日もねぎらいの言葉と共に笑顔が向けられる。労わりと優しさに満ちたその眼差しに、オレの心臓はいつも射抜かれる。

そうやって、数え切れないほどつけられた甘い傷から、切なく焦がれる想いが溢れだす。

この人の、特別になりたい。

オレのすべてがこの人に囚われているように、この人の全部を独占したい。

でも、その為にはどうすればいいのか、今のオレには分からない。同じ性を持ち、階級差に則った礼節を崩さないそのその心に入り込む術を探して、迷子の子供のように途方に暮れている。

「・・・イルカ先生」

オレの呼びかけに、イルカ先生は報告書から視線を上げた。勝手に上がる心拍数を意識しながら、オレはできる限り、軽く聞こえるように言った。

「今晩、良ければ・・・夕飯一緒にいかがですか?」

 

こんな拙い誘い文句で、オレは今日も頑張ってます。

少しでも、その黒く輝く瞳にオレの姿が映るように。

オレの言葉が、その心に届くように。

 

 

 

060706

 

 

 

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