02

 

「喜んで」

笑顔と一緒に返された返事に、一瞬でのぼせ上がった。

食事の誘いを承諾してもらっただけで、こんなに浮かれている自分を、滑稽だと思わなくもないけれど。

 

 

一度自宅へ帰って汗を流したオレは、イルカ先生の勤務が終わる時間を見計らって、受付所へと向かった。

歩き慣れた路を進む自分の足が、何処かふわふわと覚束ないのは、二人きりでの食事が初めてだという事実のせいだ。

どこへ行こう。聞きたい事も話したい事も沢山あるから、静かにゆっくり落ち着ける店がいい。

何を食べよう。イルカ先生は何が好きなんだろう。

こんなに、喜ぶ顔を見たいと思う相手は、あの人が初めてだ。こうやって、少しずつでも、距離を縮めていけたなら。

そう思いながら歩くオレのサンダルの足先を、影がすいと掠めた。

顔を上げたオレの目に入ったのは、非情なる緊急招集の鳥の姿。

・・・・嘘だろ。

響き渡るその甲高い鳴き声を聞きながら、オレも、泣きたくなった。

 

 

 

暗い気持ちのまま、急いで受付に顔を出した。

オレの姿を見つけたイルカ先生が、小さく微笑んで軽く頭を下げた。畜生。せっかくだったのに。心残りが更に深くなる。

「あの・・・イルカ先生」

イルカ先生は、分かっているという風に頷いた。彼にも、鳥の声が聞こえていたようだった。

「自分から誘っておいて、申し訳ありません」

頭を下げたオレに、イルカ先生は柔らかい笑みを浮かべた。

「お気になさらず。任務、どうぞお気をつけて」

一片の曇りもないその眼差しに、まるで、胸に鋭い刃を突き立てられたような痛みが走る。

そうやって笑える位、オレとの約束なんて、この人にとっては大した重みじゃない。

浮かれていたのはオレだけ。

好きなのはオレだけ。一方的な恋情の滑稽さを改めて思い知らされる。

結局空回り。

それでも、胸焦がすこの想いは変わらない。

 

 

 

060706

 

 

 

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