03

 

闇の中に身を潜め。

ただ一人の人間の、喉下を掻っ捌く事だけを考えて、ひたすらに時を過ごす。

「・・・今日は、無理かもね」

目を凝らし、気配を探り、諦める。口の中で呟くと、

「だな」

隣の樹上に潜む髭が、小さく応えを返してきた。

「・・・長くなりそうね」

身を翻して、地上に降りた。

「ま、あっさり尻尾を掴ませるような相手じゃねえから、俺とお前が出張ってるんだろ」

続いて降り立った髭が、肩をすくめた。

緊張をほどくと、途端に、目に入る風景が色鮮やかになる。

樹間を渡る柔らかな風が首筋を撫で、見上げた夜空には、葉生い茂る枝の向こうに上限の月。

「・・・少し、寝とこうか」

「了解」

そしてオレは、髭にも聞こえないように小さく溜息をついた。

こうしてまた。

あの人に逢える日が遠くなる。

 

 

 

再び別の樹に登り、適当な枝を探して腰を落ち着ける。

寝ると言っても本当に寝入るわけではない。目を閉じて脳への刺激量を減らすだけで、全身の神経は、どんな僅かな異変でも察知できるよう、高いレベルで張り巡らせておく。

腹は減っていないが、栄養補給の意味で兵糧丸を口に含む。

もそもそとした食感・・・何て、侘しい。

・・・一緒に飯、食いたかったなぁ。空を見上げてぽつりと呟く。

我ながら、うじうじと未練がましい。里に帰ってもう一度誘えばいいじゃないかと、自分自身に言い聞かせてはみるけれど。

お気をつけてと、微笑んだ彼を思い出し、鉛を飲み込んだように心が重くなる。

任務の成功と無事を祈る彼の言葉は、里の同胞すべてに、平等に分け与えられるもの。あの人にとってのオレが、受付で応対する忍達の中の一人に過ぎない事を、改めて思い知らされた。

「・・・遠いなぁ。イルカ先生は」

叶える手順も方法も分からない片恋は、何より、嫌われる事が恐ろしい。

「好きだなんて言ったら、どんな顔するだろう」

胸が痛くて、笑ってしまう。

あの人の、たった一言、視線一つに、振り回されてばかりだ。

 

 

 

060709

 

 

 

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