07

 

きっかけなんか覚えていない。その瞬間も覚えていない。

気がついたら、もう、恋に落ちていた。

イルカは思う。もし、過去に戻れるなら、自分がはたけカカシを好きになった時間に帰りたい。

そして、自分に伝えるのだ。

どうか、あの男を好きにならないでくれと。

こんな、叶わない、未来のない、辛くて苦しい想いを味わわせないでくれと。

そして、気がつく。

好きにならずに、いられると思うのか。

その残酷なまでに圧倒的な感情は、誰に何と言われようと、どんな状況になろうとも、きっとイルカを簡単に打ち倒す。

そして、目が眩むような想いの嵐の中に、あっという間に攫っていってしまうのだ。

 

 

 

それは、目が合うだけで、息が止まるような恋。

 

 

 

里の至宝と称えられる銀髪の上忍が姿を見せると、受付は一種独特の雰囲気に包まれる。

向けられるのは、憧憬と羨望と、密やかな嫉妬。そしてきっと、自分と同じ感情でこの男を見ている奴もいるのだろうと、イルカはじくじくと疼く胸の痛みを感じながら思う。

「お願いします。イルカ先生」

すい、と報告書を差し出すその指先は、数々の戦場を潜り抜けて来たとは思えないほど滑らかで、男のものとは思えないほど白い。受け取る自分の手の無骨さが、いつもやたらに気になった。

「お疲れ様です、はたけ上忍」

その輝かしい経歴と、巷に流布する艶やかな噂から、イルカははたけカカシを、住む世界の違う相手、近寄りがたい存在だとずっと思っていた。

だが、ナルト達の上忍としてイルカの前に現れ、今ではこうして受付で名を呼んでくれるカカシは、物腰の穏やかな、低く優しい声で話す、ごくごく普通の男だった。勿論、額宛と口布で隠されたその顔が、水が滴る様な美貌らしいという憶測を差し引いて、だが。

カカシが目の前に立っている。そう思うだけで、イルカの心臓は心拍数を倍近く上げる。体温のようなその気配に、心はふわふわと落ち着かない。

それでも不備が無いかきちんと確認しようと目を配るイルカを、カカシの声が呼んだ。

「イルカ先生」

どくり、と高鳴った鼓動が、カカシに聞こえやしなかっただろうか。

イルカはゆっくりと顔を上げた。だが、微かに首を傾げ、濃灰の右目を少し眠そうに細めたカカシの視線を、とてもじゃないがまっすぐ受け止める事なんでできない。

不自然でない程度に視線を外したイルカの耳に、

「今晩、良ければ夕飯一緒にいかがですか?」

信じられない言葉が飛び込んできた。

 

 

 

「何か、お前、張り切ってんな」

午後の混雑の合間、寸暇を惜しんで報告書の二次チェックをするイルカに、隣の男が胡乱な視線を送ってきた。

普段に増して手早い処理と、忍達にかける声の調子に、喜色が滲み出ていたのかと、イルカは単純な自分に苦笑した。

「ちょっと、本気出してみた」

誤魔化すつもりでそう言うと、男は鼻白んだような表情を浮かべた。

 

 

 

060827

 

 

 

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