友人と呼ぶには僅かばかり抵抗を感じる相手が、今夜も部屋にやってきた。

 

「イルカ先生、何か食わせて下さい」

「・・・茶だけの茶漬けでよければ」

上等です、とちゃぶ台の向こうに腰を下ろしたカカシは、僅かに夜露の匂いを纏っている。

「風呂は?カカシさん」

「後で下さい」

こうして訪ねて来ては、ここに来ると妙に腹が減るんです、とのたまうこの上忍に、イルカが風呂と簡単な食事を与えるのはいつもの事。時には大の男二人が寝るには小さい布団に、並んで潜り込んだりもする。

今、一番身近な存在といっても過言ではない。それでも、気の置けない友人というには、間に透明のカーテンが引かれているような、微妙な遠慮と配慮があるのは何故だろう。

それが一体何なのか、そもそも、どうしてカカシはここへ訪ねてくるのか。イルカは時々考えて、友人の定義に対する思考の迷路に入り込む。

 

「・・・あれ?」

茶だけではあんまりかと漬物を添えた茶漬けを、カカシの前に置いた。頂きます、と手を合わせたカカシをふと見れば、左の耳朶に、赤い筋が走っている。

一見細長いピアスを入れているようだったが、よく見ればそれは、出来たばかりの傷だった。

「ちょっと、任務で。噛まれちゃって」

イルカの視線に気づいたカカシが、がりがりと頭の後ろを掻いた。

聞けば、護衛相手の豪商の娘に気に入られ、あれやこれやと誘ってくるのを、任務中だからと慇懃に無視していたら、焦れて噛みついてきたという。

「・・・耳を噛まれるだなんて、随分迂闊なんじゃないです?」

呆れながら、揶揄を込めてイルカが言うと、

「内緒の話があると言われて、顔を寄せたら、この通り」

文字通り、カカシは苦笑を浮かべた。

「8歳の子供だと思って、油断しました」

「・・・・・・」

「女は、生まれた時から女なんですねぇ」

 

カカシの耳朶に浮かぶ血色のそれは、その白い肌と銀色の髪、深い緋色の左目と相俟って、まるで自ずから輝く紅玉をはめ込んだかのように、輝き、眼を惹きつける。

無粋な忍服姿のカカシには一見不釣合いな、しかしその実、酷く扇情的に映るその色彩。

 

その耳に、肌に、誰かが歯で触れた。

そう考えた瞬間湧き上がった、この黒く重苦しいものは何だろう。

 

イルカは、茶漬けを載せてきた盆を抱えたまま、カカシに膝で近寄った。

近寄るイルカを見守るカカシの眼差しが、ほんの僅かに細くなる。

「・・・耳に光るそのピアスが、何だかとても美味しそうで」

彼の血でできたその装飾を見つめながら、そう静かに囁けば、

「だったら、食べて」

オレはずっと、あなたを食べたいよ。

 

微笑むカカシの言葉に、やっと、気づく。

カカシがこの部屋で腹を空かせる理由も。

イルカがカカシの耳に惹きつけられる訳も。

友人の定義なんかで、量れるはずがなかったのだ。

 

 

 

080305

 

 

 

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