血。一面の赤。

「ごめんねぇ」

隣で、カカシが呟く。

「ちゃんと連れて帰るつもりだったのに」

「・・・・・・」

「ごめん、イルカ先生」

目の前には、折り重なった死体が累々と転がり、森には血反吐の匂いが充満している。

敵は全滅。生きて動く人間は、自分達以外にいない。だが、その自分達も、もはや立って歩く事も難しい。装備品もすべて使い果たしたカカシとイルカは、巨木の根元に並んで座り込み、命の血潮が己の体から流れ出るのを、ただ、ぼんやりと感じていた。

カカシ一人なら、もっと有利で効果的な戦い方があっただろう。だが実力の劣る、しかも敵襲で重傷を負ったイルカを庇いながらの戦いは、カカシのチャクラとスタミナを、致命的なまでに消耗させた。

謝っても、どうしようもない。それでも謝罪の言葉を口にせずにはいられないイルカに、カカシは「全部込みなんですから、気にしないで」と、ずっと、笑っていた。

だが。

「・・・あいつらに、恨まれちゃうなぁ」

どんな状況になっても決して、泣き言めいた事を言わなかったカカシが漏らしたその一言に、絶望の闇を見る。死体の一つがこちらへ向ける光の無い虚ろな瞳に、そっちへいくのも時間の問題だと思う。

「・・・生き延びて下さい」

地に投げ出されたカカシの指に、震える自分の手を伸ばして、イルカは言った。

「俺の血肉を食らってでも、あなただけは、どうか、生き延びて」

叶わぬ願いだと思いながら。

「・・・あなたをくれるの?」

ふ、とカカシは小さく笑ったようだった。

「なんでも?」

頷く代わりに、触れ合わせた指先に渾身の力を込める。

「だったらさ」

なんでもくれると言うなら、あなたをちょうだい。

あなたの時間全て。

オレかあなた、どちらかの命が尽きるまで、あなたの時間をオレに頂戴。

 

 

 

あれは、まだ、幼さの残る3人の子供達が、カカシの足元に纏わりついていた頃。

「あなたの事を、好きになってしまいました」

カカシの突然の告白は、イルカを戸惑わせるばかりだった。同性で上忍のカカシに、尊敬の念こそあれ、色めいた感情など露ほども抱いたことがなかった。

恋愛の相手として考える事ができない。正直にそう伝えたイルカに、

「じゃあ、暫くは友達でいましょうか」

怒るでもなく悲しむでもなく、カカシはそう言って微笑んだ。

その暫くが、ずっと、今日まで続いていた。

 

 

 

「一生片思いだと思ってたから、こんな風に成就するなんて、幸せ」

そう言うカカシに、胸の奥が、苦しくなる。

カカシの自分に対する気持ちが変わっていない事が、嬉しい。カカシと歩む未来を失ってしまう事が、哀しい。

素直にそう思う自分を、イルカははっきりと感じていた。

 

 

 

******

 

 

 

「・・・分かってたんでしょう?」

「何がです?」

「助けがすぐに来るの知ってて・・・あんな事、言ったんでしょう」

「オレは千里眼じゃないですよ」

「不謹慎極まりないです!」

「だから、知りませんて」

ため息をつくカカシの表情からは、真実を言っているのか、誤魔化しているのか、全く読み取れない。

運び込まれた病院で、自分の個室を与えられているにも関わらずイルカの病室に入り浸るカカシと、こうして毎日、不毛な言争いが続いている。

「でも、約束は約束です」

そう言って、カカシはイルカに手を差し伸べた。

「オレかあなた、どちらかの命が尽きるまで、あなたの時間はオレのもの」

あなたの今から未来、全部がオレのもの。

イルカは、カカシの白い掌を睨みつけた。

「・・・だったら、1秒でも長生きして下さい」

本当に、癪だけれど。

 

どうか。

1秒でも長く、俺を、あなたのものにしておいて下さい。

 心の奥で、イルカはそっと呟いた。

 

 

 

080330

 

 

 

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