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「聞こえない」 そう答えると、イルカ先生は驚いたように目を見開いた。言葉通りの意味に取ったのだろう。もう一度、その忌まわしい言葉を繰り返した。 「結婚する事になりそうなんです」 だから。 「聞こえない」 イルカ先生の表情が、不安げに曇るのを、じっと見下ろした。 「あの・・・」 「聞こえない」 「・・・・・・」 「そんなの、聞こえないから」 そんな言葉は聞こえない。 あなたの心が、体が、他の人間のものになる。その温かい眼差しが、慈しみに満ちた言葉が、他の誰かに向けられる。 そんな事、我慢できない。 じりじり、と後悔が胸を焼く。焦燥に歯噛みする。 もっと早くに、この想いを伝えていたら。無理矢理にでも、全部を奪い取っていたら。 「聞こえないなら、聞こえなくていいです」 イルカ先生が静かに言った。 「そんな顔をして、聞こえないなんて言う位なら」 俺を攫ってみろよ。腰抜け野郎。 ずるいと罵られても構わない。 その小さな呟きだけは、はっきりと聞こえたなんて。 あなたの気持ちを知ってからじゃないと、あなたをこうして、抱きしめられなかったなんて。 080330 ブラウザを閉じてお戻り下さい |
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