里は、遥か北に遠く。

未だ夏の気配を残すこの土地で、カカシは一人、夜空を見上げる。

孤独の忍を見守るのは、中空に浮かぶ丸く大きな白い月。輝く星達は、木の葉の里とは違う星座。

この地は、彼の人が立つ場所に続き、この空は、彼の人の頭上に広がる。今、カカシの頬を撫でる風はきっと、彼の人の長い黒髪を揺らすだろう。

同じ世界を共有しながら、ただ、ただ、遠い人。

長期の里外任務を厭うた事などないけれど、今は、会えないのが辛い。

片思いの相手でも。いや、そうだからこそ、会いたいと思う気持ちはより強くなる。

 

ねぇ。

どこ見てるの?何してるの?今、あなたの目の前に誰がいるの?

今この瞬間にも、あなたの心が誰かに奪われて、他の奴のものになってしまいやしないかと、それだけが心配で。

 

「だからって、帰って告白できる自信もないし」

彼の人に好いて貰えるだけのものを、カカシは何も持っていない。

忍となるべくして生まれ、忍として育ち、忍として生きている。人より人殺しの術が巧みだったから、今、こうして息をしているだけだ。

どうか自分を好いてくれと頼めるだけの、誇れるものがない。

もしも、どちらかが女だったら、ただ、あなたを好きだというこの気持ちだけで、あなたの前に堂々と立てるだろうか。

馬鹿らしい、とカカシは首を振った。それだけで彼の人の愛が得られるなら、自分は一生女に身を変え生きてゆこう。彼の人が子供を望むなら、その方法を見つけよう。

でも、駄目なのだ、それだけでは。

彼の人が、想いを告げてきた女性に丁寧に謝罪している姿を知っている。

誰か好きな人がいるのですかと問い詰められて、否定も肯定もせずに困った顔で微笑んだ事を知っている。

 

浮かぶ月に、輝く星に、吹く風に、問いかける。

どうすれば、あなたの心を知ることができますか?

どうすれば、あなたの心を手に入れられますか?

 

 

 

答えを得られる訳は無いと知っていながら。

 

 

 

孤独な忍の夜は静かに更けてゆく。

 

 

 

081207

 

 

 

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