咲く花 みのる実 笑う君

 

 

 

 どうせ死んじゃうんだったら、従順なほうがいいでしょ?

 

 

 

1.

「・・・あんた、何やってんの?」

顔を上げると、入り口のドアを開けた姿勢で、紅が立っていた。

 ベッドに上半身だけ起こしたオレの上で、今まであんあん言っていたくノ一は、きゃあ、と可愛い声を上げて、はだけた胸元をかき抱いた。

「何って、ご覧の通り、いちゃいちゃしてます」

オレの言葉に、紅ははぁとため息をつくと、じろり、とくノ一を睨んだ。彼女は慌てて衣服を整え、脱兎のごとく部屋を出て行った。

せっかく、いいとこだったのに。

うちはイタチとやりあってぶっ倒れ、こんこんと眠り続けたオレの体調を、医療班の彼女が定期的にチェックしてくれていたらしい。

綱手様のお陰でオレは目覚め、彼女の仕事は今日で終わりになった。眠っていたオレに自覚はなかったが、一応礼を言うと、一度でいいからとせがまれた。

オレとしても、可愛い女の子に迫られて、断る理由はない。

「全く、大人しく寝てるかと思ったら。やっぱりはたけカカシははたけカカシね」

この節操なし、と紅は腰に手を当ててオレを見下ろした。オレは、無実です、と両手を上げた。

「入れてはないよ。触っただけ。しかも、手でだけ」

「・・・ったく、そういう問題じゃないわよ。でも、ま、その様子じゃ、もう体調は問題ないみたいね」

「嫌、です」

オレは、嫌な予感に先回りして言った。

「病み上がりなんだから、変な任務は辞退します」

ふふん、と紅は唇の端を持ち上げて笑った。

「五代目火影様より、直々の命令よ。それとも、懲罰房入り第一号になるつもり?」

オレは天井を見上げた。あの年増め。さっそくこき使うつもり?

「後で鳥が連絡に来るはずよ。火影様には、はたけカカシは体調万全、下半身任務もどんとこい、って伝えておくからね」

「・・・はいはい」

「それから、奈良シカマルの中忍昇進が正式に決まったわ。規則に則って、班の組み直しに関して上忍師に聞き合わせがあるそうよ。今回はとりあえず形式だけで、現状維持で決定だそうだけど」

「はいはーい」

「・・・返事の仕方を、アカデミーで習い直した方がいいみたいね」

 紅は、ふと口をつぐみ、まじまじとオレを見下ろした。

「何?オレの顔に何かついてる?」

一応言っておくわね、と紅は言った。

「元気になってくれて、嬉しいわ。カカシ」

オレは、紅の明るい色の瞳を見た。・・・やっぱり、心配かけてたんだろうね。

「・・・一応は、余計でしょ」

 ありがとう、と呟くオレにひらひらと手を振って、紅は部屋を出て行った。

 オレはベッドから起き上がり、床に立って目を閉じた。

頭の先から、つま先まで、流れるチャクラに滞りはない。体調は、ほぼ戻った。

目を開けて、窓の外を見た。

外は朝からよい天気で、こんな日に呼び出しをくらうなんて、うんざりだけれど。

本当は、もうちょっと、怠けてたかったんだけど。

仕方ないね。

オレは、この為に生きているんだから。

 

 

 

 「お前達、元気にしてた?」

オレの足元に、8匹の忍犬達が次々に飛び掛ってきた。

順々に、抱きしめて撫でてやる。ちゃんと飯は喰っているか、歯の様子は、毛づやはどうか。千切れそうに尻尾を振る8匹の元気な様子に、オレは安堵のため息をついた。

「カカシ、元気になったのか?」

パックンが、肩に乗ってきた。

「まあ、な」

「もう、家に帰れるのか?」

「ん〜、ごめん。後もう少し、ここで待ってて」

 里外任務が入ったと言うと、パックンは、落胆を隠して頷いた。オレの周りを跳ね回っていたほかの犬達も、しょんぼりとした様子を見せたが、決して何も言わない。

優先順位をわきまえる。忍犬の基本だ。飼い主としては、いじらしくて堪らないけど。

オレと犬達は、預かり所の広大な庭の中にいた。

忍犬忍猫、その他忍の働きをする動物たちを、飼い主が任務などで留守の間預かる施設だ。オレが意識を失ってからずっと、犬達はここで面倒を見てもらっていた。

「今度の任務は、どの位の期間ですか?」

預かり所の職員が聞いてきた。

「一応5日間の予定です。今回は行き先は言えません。こいつ等の健康管理、頼みます」

 犬塚一族のように、忍犬を自身の技と一体化させるのとは違い、オレを含めて大多数の忍が、術で呼び寄せて獣を使う。任務先で口寄せの術を使ったはいいが、呼んだ獣に支障があっては全く意味がない。

任務遂行の為に、獣達の準備を万全に整えておく。この施設の役割は非常に重要だった。

眼鏡の女性職員は微笑んだ。

「犬達の健康に、今のところ支障はありません。あなたに会えて、元気も取り戻したでしょう。大好きな飼い主に会えるのが、この子達の一番のパワーの源ですから」

 こういう目で犬達を見てくれるから、安心してここに預けられる。

 「さて、お前達。少し走る?」

オレの言葉に、犬達は尻尾を振り回した。

 と、その時、パックンが庭の入り口の方に顔を向けた。

「イルカ先生だ」

イルカ先生?オレは振り返って、門扉の前にその姿を認めた。パックンが、走っていきたそうに、うずうずとオレの顔を見上げた。何で、お前が?

「か・・・はたけ上忍。こちらでしたか」

庭を横切ってこちらに歩いて来たイルカ先生は、オレに軽く一礼して、犬達に笑顔を向けた。

 驚いたことに、犬達はイルカ先生の足元にわらわらと集まって、親しげに鼻面を擦り付けている。お前達、一応忍犬でしょ?

「・・・随分、懐いちゃってますね。うちの犬」

「業務の合間に、こちらのお手伝いもさせていただいていたので」

木の葉崩しによる深刻な人手不足は、事務方に最もしわ寄せが来ている。

「そうか、それは、お世話になりました」

そう頭を下げると、仕事ですから、と照れたように顔の前で手を振った。

「で、こんな所まで、オレに何か用ですか?」

イルカ先生は、姿勢を正して、指を顔の前で交差させた。

「今、任務を拝命しました。はたけ上忍、明日からよろしくお願いいたします」

 オレは、先ほど火影様から押し付けられた任務を思い出した。そう言えば、中忍を一人つけるって言ってたな。

「イルカ先生だったんですか」

「驚かれましたか?」

イルカ先生は、薄く微笑んだ。

「これでも一応、A、Bランクの任務は、上忍選抜試験の基準以上はこなしているんですよ」

 驚いた。そうか、この人も、人を殺したことがあるんだ。

中忍なら、それが普通だ。でも、不思議な気持ちがした。

イルカ先生は、先生という生き物だと思っていた。

上忍師としてナルト達を受け持つことになって初めて、受付所に座っていたこの人を認識した。

会えば挨拶を交わす程度で、特に親しくなった訳ではないけれど、その人となりは、子供たちの口から嫌でも耳に入ってきた。

優しくて、恐いイルカ先生。子供たちを第一に思って、処罰も恐れず、上忍に喰ってかかるような人。

里の忌み子だったナルトを庇い、里でただ一人、その手を繋いで歩いてきた人。

人の命は数で数えられるものじゃないし、自分を卑下するつもりもないけど、いつも他人の血で濡れているようなオレとは、ほんと対照的。

育て、慈しむ存在。

わふわふと、犬達がイルカ先生とオレの間を嬉しそうに跳ね回った。

イルカ先生は、その様子を目を細めて見ている。

子供だけじゃなく、動物も好きなんだ。

愛情が溢れてる。

いいね。こういう人。

 情が深くて、忠実で。賢そうだし、綺麗な目だし。

 大切なものを守るためだったら、命も賭けそうなところもいい。

これで飼い主に従順だったら、本当に言うことなし。

「・・・イルカ先生みたいな犬が欲しいなぁ」

「は?」

何でもないです、とオレはイルカ先生に笑いかけた。

 明日からの任務、少し、楽しみかもしれない。

 

 

 

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