上忍待機所で愛読書を広げていると、入り口のドアががらりと開いた。

「・・・こんな所で何やってんだ、カカシ」

咥え煙草のアスマが顔を出した。

「イルカ、任務から帰ったんじゃなかったのか?」

「うん。今日の午前中にね」

「行かねえのか?この間からそわそわしてた癖によ」

オレは、時計をちらりと見た。短針は、11時と12時の間を指している。

「そうだねぇ・・・」

確かに、そろそろいい頃合か。

「帰るわ」

オレは立ち上がって、愛読書をポケットに捻じ込んだ。

「じゃあね。明日まで、緊急の呼び出しも無視するかも」

「馬鹿言ってんじゃねえ」

鼻で笑ったアスマは、煙草をふかしながらオレの顔をじっと見つめてきた。

「何よ?」

いいや、と答える眼差しが、微妙な含みを持っている。

さすが。察しがいいじゃない。

「・・・ま、任務に差し支えん程度にしとけよ」

オレは唇だけで笑って、アスマに背を向けた。

 

 

 

夜の中を、イルカ先生の部屋へと向かって歩く。

確かに、ちょっと異常かもしれないけれど、仕方がないでしょ。

イルカ先生に関しては、オレには耐えて忍ぶなんて土台無理な話。理性だってまともに働かせる自信がない。

3ヶ月会えなかっただけでも大概しんどいのに、あの人が別の女に乗り換えただなんて下らない話を聞かされた時の、オレの気持ちが分かる?

アキホとの間に何かあったなんて信じちゃいないけど、一度着火した嫉妬心は、あの人がオレだけのものだって納得できるまで、どうしたって収まらない。

言葉じゃ足りない。

心だけでも満足できない。

ねえ。イルカ先生。

その体全部で、どうかオレに実感させて。

 

 

 

路地から見上げると、イルカ先生の部屋の明かりは既に消えていた。

オレは、はやる気持ちを抑えながらアパートの外階段を2階へと上がった。

ポケットから鍵を取り出し、音を立てないようにそっとドアを開く。ち、と小さな音が聞こえたのは、部屋全体に施された術のせいだ。部屋の中で生まれる、色々と差障りのある音や気配が外へ漏れないようしっかりと封じている。

「・・・・・・」

暗い部屋の中は、独特の濃密な気配に満ちていた。汗と、もっと生々しいものの匂いが鼻腔をくすぐる。ねっとりと湿った空気が、この空間の中で何が行われているのかをあからさまに伝えてきた。

オレは気配を消したまま、静かに玄関を上がり、台所から居間へと進んだ。

居間の右隣、閉じた襖で隔てられた向こう。イルカ先生の寝室から、ぎしぎしとベッドが軋む音が聞こえてくる。

「お・・・かし・・いっ・・・へん、だ・・・こんな」

「いつもと同じだって、イルカ先生が自分で言ったんでしょ」

「いや・・・や、だ・・・お、おかしく・・・なる・・・」

「なって」

ベッドの軋みが一際大きくなったのと同時に、言葉にならない声が上がった。聞いているだけで腰に熱が集まってきて、オレは思わず息をつめた。

視線をめぐらせると、ちゃぶ台の上に、茶色の小瓶が二つと、水が入ったコップが置かれているのが目に入った。

オレはコップを手に取り、中に残った水を舌先で舐めた。にぃ、と笑いが浮かんでくる。

なかなかえげつない事をするじゃないの。これでは、きっと今のあの人は。

居ても立ってもいられない気持ちになって、オレは、寝室へ続く襖をそっと開いた。

部屋は暗く、更に淫靡な気配に満ちていた。

窓際のベッドの上で、二つの影が絡み合っている。高く持ち上げられた太腿の色に、オレは目を奪われた。

汗ばんだ肌が、カーテン越しの薄い月光の中で艶かしく光っている。ぎゅっと握られた爪先が誘うように揺れる度、堪え切れないといった感の嬌声が上がる。

「あっあ・・・っんん・・・」

両手を頭上で縫い止められたイルカ先生が、男に激しく突き上げられていた。

長い黒髪が、汗で濡れた頬に張り付いている。男らしい眉は、官能を堪える為にきつく寄せられ、閉じた瞳は、長い睫が雫をのせて微かに震えている。

甘い吐息と、荒い呼吸音と、ぬちゃぬちゃという水音と、肉がぶつかりあう音が交じり合って、光景をより一層卑猥に感じさせる。

男に組み敷かれ、犯され、乱れる恋人の姿。

獣じみた欲が、オレの中でふつふつと沸騰した。

イルカ先生を貪っていた男が、肩越しに振り返り、襖を閉じて立ち尽くすオレと目が合った。瞼を閉じたままのイルカ先生は、オレに気付いた様子もない。

に、と再び笑いが浮かんできた。

ぬちゃり、と音をたてて、男が楔を抜いた。んん、と首を振るイルカ先生の顎を掴み、舌を差し込む。絡み合う舌の動きがここからでも分かるほど淫らな口付けに、目が眩むような気持ちがした。

「うつ伏せて」

男は命令と同時に、イルカ先生の背に腕を回した。緩慢な動きで身を返すイルカ先生の、その腰を性急に抱え上げ、男は再び己の肉を打ち込んだ。

「あぁっ!」

仰け反ったイルカ先生の腕を掴んで、引き寄せるように男は腰を打ち付けた。イルカ先生の背中の傷を汗が伝い、男はさもうまそうにそれを舐め取った。

「・・・ね、きもちいい?」

「あ・・・ん、ふっ、ふ・・・」

揺さぶられ、朦朧と頷く様子に、嗜虐心が沸き上がった。

もっと。もっと乱れさせてみたい。

あの体の、更に奥まで入り込んで、体中をオレでいっぱいにしてやりたい。

頭の中と下半身が有り得ない程熱を持ち、握り締めた拳が、ぎ、と鳴った。

「・・・イルカ先生のいやらしい声、もっと聞かせてあげなきゃね」

そう言って、男は繋がったまま、イルカ先生を抱き起こした。

イルカ先生は、何を言われたのか理解できないようだった。男にもたれるように膝立ちになり、男に導かれるままに顔をこちらへ向けた。その潤んだ眼差しが、数度瞬き、ゆっくりと焦点を結んだ。

「・・・カ・・・カシさん?」

どこか舌足らずな声で、戸惑ったようにイルカ先生は言った。その耳たぶを甘咬みしながら男が囁いた。

「さっきから、見られてたよ」

「え・・・あ・・・」

「びっくりした?」

イルカ先生の体が、がくがくと震え始めた。

「な・・・んで・・・カカシさ・・・え・・・?」

「ほら、もっと見せてあげて」

男は、ベッドに腰を落とすと、イルカ先生の膝の後ろを抱え、オレに向かって腿から大きく割り広げた。快感を示している雄の部分も、その奥で男を迎え入れている場所も、すべてを露わにされたあられもない姿勢に、イルカ先生の全身が真っ赤に染まった。

「や・・・い、やだっ・・・」

「オレのが入ってる所も、びしょびしょに濡らしてるのも、あっちから丸見え」

イルカ先生は泣き声のような上げて顔を逸らした。男の眉が、く、と寄った。

「・・・そんなに締め付けて。見られて感じるの?」

「ちが・・・」

「そうでしょ?犯されて、乱れてる所を恋人に見られて、興奮してるんでしょ?」

男が、ゆるゆると腰を動かし始めた。じゅくじゅくと卑猥な音がたち、イルカ先生の雄を、はしたない雫が流れ伝うのが見えた。

「ほら、分かるでしょ?」

男が囁く。

「イルカ先生がいやらしいから、あいつも興奮してる」

「いや、いやだ・・・あ・・・あ・・・ふ・・んんっ」

拒絶の言葉が、次第に甘い色に染まっていった。

薄く開いた瞼の向こう、黒い瞳が蕩けるような色でオレを見つめる。

深く貫かれた自分の痴態に恥じ入りながら、それでも、確かに、淫らな誘いをかけてくる。

それは飲まされた薬のせいか。それとも。

「おい」

オレは、男に声を掛けた。自分の声がまるで別人のように掠れていた。

もう、限界。

「本体だからって、自分ばっかりいい思いしてんじゃないよ」

オレがそう言うと、イルカ先生の肩越しに、オレが、くく、と笑った。

 

 

 

たまんない。

オレは目を細めて見下ろした。何て、いい眺め。

四つんばいになったイルカ先生が、その口でオレに奉仕してくれている。眉を寄せ、目を閉じて、必死にオレを迎え入れている。

けれど、後ろを攻められているから満足に舌を使えない。実際はただ口に咥えているだけで、もう一人のオレに突き上げられる度に、くぐもった喘ぎ声を零して、いやいやをするように首を振る。

オレはその頬を両手で挟んで、ゆっくりと腰をグラインドさせる。温かい口腔の感触を味わいながら、唾液で濡れるイルカ先生の唇を撫でる。

犯される恋人を犯す。このシチュエーションだけでイってしまいそうだ。

イルカ先生を突き上げるオレの動きがさらに激しくなった。イルカ先生のぐっと背が反り、オレを放した口が、悦楽と切なさの入り混じった声を上げた。

イルカ先生の中にすべてを出し切ったオレが腰を離すと、イルカ先生はくたりとシーツに崩れ落ちた。その手が自分の下腹部に伸びるのを、手首を掴んで阻むと、イルカ先生は泣き出しそうな声で言った。

「い・・・だ・・・おねが・・・」

掠れた声と、涙と欲望に潤んだその目が、オレ達二人をさらに興奮させるとは思わないのかね。

「ん。頑張ってくれたから、そろそろ、イかせてあげるね」

イルカ先生の雄は、一度も弾ける事無く、ずっと張り詰めたままだ。四つの手と二つの舌で、全身に濃厚に施した愛撫は、その部分だけを外し、自分で触る事も許していない。

「ね、イルカ先生。どうして欲しいのかちゃんと言って」

「オレ達二人で、気持ちよくしてあげるから」

普段のイルカ先生なら絶対に口にしないだろう卑猥な言葉で、そこへの愛撫を強請らせた。

羞恥と、差し迫った欲の狭間で震えるイルカ先生は、昼間の引き締まった表情が嘘のように艶めかしい。

それは、オレだけが知っている。その事実に燃え上がる。

勿論、その後のオレ達が、彼への奉仕だけで満足できるはずもなかった。

 

 

 

次の朝から1週間、イルカ先生が口をきいてくれなかったのは、一応、予想の範囲内。

1週間後、今度薬を使ったらちょん切ると不穏な事を言われて、つい、小瓶の中身は両方とも栄養剤だとばらしてしまった。

瞬間、本気の殺気が乗った拳が飛んできた。何とか避けたら、今度はクナイ。

「なあにそれ。自分が勝手に思い込んだんでしょ」

真っ赤な顔をして怒る姿もそそるなんて、惚れた欲目だと思うけれど。

はいはい。分かった。分かりましたよ。もうしませんし言いません。

・・・えーっと。それじゃあ。

影分身プレイは、いいって事なの?

 

 

 

完(06.09.12)

 

 

 

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