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二人だけで世界を閉じて。 茶色いガラスの小瓶を二つ、目の前に並べられた。 「どちらか片方を、飲んで下さい」 瓶の隣に水を汲んだコップを置いて、カカシが言った。 「何ですか?これは」 イルカは首をかしげた。二つの瓶は大きさも形も全く同じ。透かし見える内容物の量まで寸分違わない。 「片方は、ただの栄養剤」 カカシはにこりと微笑んだ。目許に柔らかく皺が寄るいつもの笑顔に、イルカもつられるように笑った。 「もう片方は、イビキに貰った催淫剤です」 イルカの笑顔が固まった。今、何て? イルカを見返すカカシは、空恐ろしい程穏やかだった。サイインザイという言葉が意味するものが、じわじわと沁み込むようにイルカの中に入ってきた。 カカシと情を交わすようになって3年。その間で、カカシが潤滑油以外の薬品や小道具をイルカに対して使った事は一度もない。それなのに、どうして、今日、急に。 ひょっとして。 イルカはふと思い至った。一ヶ月前、任務の派遣先でカカシから初めて貰った手紙に書かれていた言葉が、現実味を帯びて迫ってきた。 帰ったら、お仕置きですから。 イルカは、眩暈を起こしそうな感覚を覚えた。カカシが何を考え、イルカに何を求めているのか、知るのが恐ろしかった。 カカシが差し出すものなら、どんな得体の知れないものでも、体内に入れる事に躊躇しない。だがそれと、乱れた姿をカカシに晒す事を許容できるかどうかは、全く別の話だ。 並ぶ小瓶に視線を移し、イルカは溜息をついた。 「・・・俺には、どちらも同じに見えますが」 「どちらも無味無臭、舌触りまで同じですよ。飲んで効果が出るまで、どちらがどうなのか、オレにも分かりません」 イルカは驚いて、カカシと手の中の瓶を見比べた。それでは、カカシの意図する薬をイルカが口に入れる確率は全くの2分の1という事になる。 催淫剤だから飲め、というのではなく。栄養剤だと偽って飲ませようとする訳でもなく。カカシ自身にもどちらか分からないものを、イルカに選ばせて飲ませようとする、その意図が分からなくて、イルカは眉を寄せた。 お仕置きするって、そういう意味じゃないのか? 混乱するイルカを見つめる、カカシの微笑みは変わらない。 「長らくの任務、本当にご苦労だった」 綱手の声に、アキホとイルカは頭を下げた。 3ヶ月に渡る樹の国での任務は、任務の成功と部隊全員の帰還という誇らしい結果を以って終了した。負傷した部隊長に代わって副部隊長のアキホが、今回の任務に関する報告書の作成を命じられたイルカを伴って、火影の執務室を訪れた。 「部隊長の怪我も大事無いそうで安心したよ」 イルカの簡略な報告を口頭で聞き、綱手が笑った。 「全員、病院で検査の後、2週間の休暇を与える。ゆっくり休んでくれ」 慢性的な人員不足に喘ぐ木の葉では破格の配慮に、アキホとイルカは目を丸くした。 「そんな顔すんじゃないよ」 私がいつもこき使ってるだけみたいじゃないか、と綱手は苦笑した。 「体を休める為だけじゃないよ。お前達の家族やら恋人やらに、長く寂しい思いをさせちまったんだからね」 じっくりサービスしてやんな、と赤い唇を持ち上げた綱手に、イルカはもう一度頭を下げた。強いだけでなく、厳しいだけでない、これが木の葉の火影だった。 アキホに続いて、イルカは執務室を辞した。先に廊下に出たアキホが、あら、と呟いた。 「お迎えよ、うみの中忍」 視線を巡らせたイルカの目に、廊下の壁にもたれるように立つ銀髪の男の姿が入った。 「カ・・・はたけ上忍」 名を呼べば、更に胸が温かく疼いた。3ヶ月ぶりに会う、愛しい男。 「おかえり、イルカ先生」 「・・・ただいま戻りました」 その温かい微笑みに、イルカの中に残っていた最後の緊張が溶けた。カカシの元に帰ってきたという実感に、全身の疲労が溶けていくような気さえする。 腕組みを解き、壁から身を起こしたカカシは、手を伸ばしてイルカの肩を抱き寄せた。 「ち、ちょっと、カカシさ・・・」 カカシの思わぬ行為に、イルカは慌てて身をよじった。だが、カカシはさらに拘束を強くした。 「・・・この人が、世話になったみたいだけど」 カカシの視線は、アキホに向けられていた。低く淡々とした声と見下ろす瞳に、ぞっとするような冷気が篭り、イルカははっとして抵抗を止めた。 「世話になったのは私のほうよ」 アキホは怯えた様子も無く、にこりとカカシに笑い返した。 「いい男じゃない」 「・・・当たり前」 「大事にしなさいね」 「言われるまでもないよ」 微笑を苦笑に変えて、アキホはイルカに視線を向けた。その表情がどこか寂しげなのは自分の思い違いだろうかと、イルカはアキホを見返した。 「じゃあ、またね、うみの中忍。ありがとう」 「いえ。こちらこそお世話になりました」 ひらり、と手をふって、アキホは背を向けた。早足で去ってゆくその後ろ姿が、廊下の角に消えるまで、イルカはじっと見送った。 「今晩、あなたを抱きます」 いきなり、カカシの囁きが耳に吹き込まれた。 「なっ・・・」 言葉の意味と、自分の置かれている状況に、改めてイルカの頬が赤くなった。こんな公共の場所で、抱き込まれた格好で今更だとは思いながら、イルカは羞恥を誤魔化してカカシを睨んだ。 「疲れてるだろうし、少し遅くなっちゃうんで申し訳ないんですけど、待ってて貰えますか」 先程とは違う、何か濡れたものが滴ってくるような甘い瞳に覗き込まれて、イルカは小さく苦笑した。 優しい囁きがその実強引なのは相も変わらず。またそうでなければ、まっとうな性癖と常識的な思考の中で生きてきたイルカが、この男を恋人に選ぶことなどなかった。 付き合って3年。カカシのイルカに対する執着は、失われるどころか、益々強くなっている。 イルカは、ふと目を開けた。 暗い自室。窓から差し込む月光に、畳が青白く光っている。 いつの間に寝入ったのか。イルカは横になったまま、記憶を探った。確か、部屋に戻ってすぐに風呂に入って、ビールを一缶空けて。それからを覚えていない。 こちこちと時計の針が動く音に、今何時だろうと思った。 「起きた?」 ふいに優しい囁きが降ってきて、イルカは気付いた。自分が今、頭を乗せているのは。 「カカシさん」 イルカは慌てて体を起こした。窓がある壁にもたれたカカシが、膝枕をしてくれていたのだ。 「ごめんなさい。重かったでしょう?」 「いいですよ、疲れてるんですから。オレが無理言ったんだし」 つ、とイルカのほつれた髪を、カカシの指が梳いた。 「あの・・・いつ?俺、全然気がつきませんでした」 「ついさっき、10分位前ですよ。オレの方こそ、遅くなってしまってごめんなさい」 壁の時計は、11時を指している。カカシは忍服のベストだけ脱いだ姿だった。 「イルカ先生よく寝てたから、本当はベッドに運んであげたほうが良かったのかもしれませんけど」 けど、とカカシはもう一度言って、イルカに向き直った。 「ね。ぎゅーって、して下さい」 子供のような甘え方に笑いながら、イルカは腕を伸ばし、カカシの体をきつく抱き締めた。カカシの腕が腰に回り、同じ力で抱き返してくれる。その堅くしなやかな筋肉と、馴染んだ体温の匂いに、深い安堵と、切ない位の愛しさが沸きあがった。 やっと、逢えた。 触れ合えた。 「オレと会えなくて寂しかった?」 カカシの髪がイルカの頬に触れ、呼気が首筋をくすぐった。 「寂しかったです」 「オレはその何倍も寂しかったですよ」 イルカの頬に鼻を摺り寄せて、拗ねたようにカカシは言った。 「今日、帰ってきてから、オレを待ってる間、何考えてました?」 問いかけの合間に、顔のあちこちに口付けが降ってきた。瞼に、眉に、鼻に、頬に。そして唇にも、啄むようなキスを落とされた。 「オレの事、考えてくれてた?」 カカシの事しか考えていない。そう思いながら頷いた。 この部屋に戻り、風呂に入れば、抱きます、と言ったカカシの言葉を思い出して、まるでカカシに抱かれる為の準備をしているようだと、一人顔を赤くした。3年という月日も、もう数えることも出来ないカカシとの交わりの記憶も、欲望を自覚させる羞恥心までは消してくれない。 「オレにこうやって触られる事」 不埒な指が、布越しにイルカの胸の突起に触れた。指を押し上げるような感触を味わうように、指先で柔らかく擦り爪で軽く弾かれて、イルカは小さく息をつめた。 「オレにキスされる事」 薄く開いたイルカの唇を、カカシは舌でなぞる様に舐めた。びく、と震えるイルカの体を抱き止め、健やかな歯列を割って、先程とは比べ物にならない貪る様な深い口付けを施した。 「我慢と嫉妬でぎりぎりなオレに、これから滅茶苦茶に抱かれるだろうって事、少しは考えてくれてました?」 唇を触れ合わせたまま、あからさまな囁きを吹き込まれて、イルカは返す言葉を失った。とろりとした欲を孕んだ双眸がじっと覗き込んでくる。 「オレはずっと、イルカ先生の事を考えてました」 堪らず目を伏せたイルカの耳を、低く蕩けるような声が犯した。 「あなたを抱きたくて抱きたくて、仕方なかった」 そして、立ち上がったカカシは、ハンガーにかけていたベストの胸ポケットからその二つの瓶を取り出したのだった。 ベッドの上。膝を割り広げられ、剥き出しの欲望に口付けられた。 唇と、舌と、歯と、口腔すべてを使って与えられる刺激に、緩く立ち上がりかけていたイルカの雄は、すぐに堅く張り詰めた。先端を舌先で押し広げられ、そこから溢れる蜜を吸い上げられて、堪え切れない声が喉から零れた。 「っ・・・あ・・・あ」 「なに?出ちゃいそう?」 小さく頷くイルカを上目遣いで見上げながら、カカシは裏側の窪みに柔らかく歯を当てた。途端に背筋を突き上げた痺れに、イルカの内腿が突っ張り、爪先が空を掻いた。 「・・・カ、カシさ・・・もう・・・」 「だめ。もうちょっと我慢して」 優しい口調とは裏腹に、根元を握る指は容赦なく拘束を強め、ひ、と仰け反ったイルカの雄を、カカシは再び深く咥え込んだ。 口付けに似て湿った、それよりも格段に淫猥な音がたち、昂ぶったイルカをさらに煽った。 「おねが・・・カカシさ・・・」 カカシの口によって限界まで高められ、指によって堰き止められた熱が、出口を求めて体の中で渦巻いた。 熱い。辛い。早く吐き出させて欲しい。 イルカは縋るように、自分の足の間にあるカカシの髪をかき回した。 「もうちょっと、って言ってるのに」 唇を離し、呆れたような声で、カカシが言った。 「辛抱できないの?出したくて、イキたくて、仕方ないの?」 意地の悪い問いかけに、今度ははっきりと頷いた。だがカカシは、唇を舌先でちらりと舐めてにやりと微笑んだ。 「今日は、早いよね。すごく」 「・・・え・・・?」 右手でゆるゆると刺激を続けながら、カカシは体を上へずらせ、イルカの頬に顔を寄せた。 「ひょっとして、当たりを飲んじゃったのかな?」 カカシの囁きに、イルカは乱れた息を飲んだ。自分では、いつもと違うものは何も感じない。敢えて言うなら、 「ひ・・・久し、ぶり・・・だから・・・」 「そう?」 イルカの反論に、カカシは笑みを深くした。しなやかな猫科の獣が獲物を捕らえた時のような表情だと、イルカはぼんやりと思った。 「あれ、遅効性らしくて。特にセックスしながらだと、本来の性感に紛れて自分では気が付かないんだって」 カカシの指先が括れをなぞり、張り詰めた質感を味わうようにゆっくりと扱かれた。 「でも、少しずつ、変化は現れる」 汗ばんだ耳の後ろを唇が這い、イルカは思わず息をつめた。カカシの低い囁き声が、耳にそのまま入り込んできた。 「まず、ヤる事しか考えられなくなる。それから全身の感度が上がって、いつもなら感じない場所まで敏感になる。普段より早くなったり、我慢できなくなったり、絶頂を迎えやすくなったりする。人によっては、いくらやっても満足できない上に、回復力も増すらしい。男なら絶倫、女なら淫乱ってところ」 端正な形の口に卑猥な言葉をのせながら、カカシはイルカを握っていた手を、彼の奥の入り口に滑らせた。 「・・・あなたは、どうなるのかな」 今はまだ小さく噤んだその場所を、指先で突付くように刺激されて、イルカの肌が朱色に染まった。 「だ、から・・・ちがいます・・・俺は・・・いつもと、同じです・・・」 イルカは俯いて首を振った。今自分が感じている昂ぶりは常と変わらない。感覚神経も平常だと思う。 それに、例えイビキの薬を飲んでいたのだとしても、これからお前はセックスの事しか考えられないふしだらな体になるなんて言われて、はいそうですか、と認める訳にはいかない。 「だったら、それでいいけど」 あっさりと引いたカカシは、体を起こし、再びイルカの体を蹂躙し始めた。 二話ございます。それぞれ別のお話。お好きな方をどうぞ。どちらも大人向け。 → 「とても、あまい」 そのまんま、甘々。 → 「すこし、にがい」 表現はヌルいですが、いたたな感じです。 どんなエロでもどんとこい!な方へ。 (痛かったり、汚かったりはしません) |
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