本気で泣かせたくなる時がある。

力なら圧倒的に上だ。やろうと思えば数秒で、命を奪う事も出来る。

拒絶の言葉を吐くその口を塞いで、抵抗するその体を押さえつけて。

無理矢理に、どこか遠くへ攫ってしまいたくなる時がある。

 

 

 

カカシは目を細めて、自分の体の下で身を震わせるイルカを見つめた。

3ヶ月ぶりに肌を触れ合わせる愛しい男は、ベッドに横たわり、覆いかぶさるカカシの肩に片足をかけて、開いた体の奥にカカシの指を迎え入れている。

「ふ・・・うっ・・・」

「・・・もう、2本入った」

埋めた指でゆるりと内壁を擦った。イルカに火を灯すその一点には触れず、絡みつく肉の熱さをじっくりと味わえば、緩慢な刺激がじれったいのだろう、無意識に腰を揺らめかせる仕草が、可愛らしくもいやらしい。

「何?もっと奥に欲しいの?」

「ち・・・が・・・ん、ん」

「ちゃんと解しておかないと。久しぶりなんだから」

上気した肌はしっとりと汗を滲ませて、ひたりとカカシの掌に吸い付いて来る。筋張った首筋も、喘ぎを堪える度上下する喉仏も、腕に堅い感触を伝えてくる引き締まった筋肉も、この体は確かに武骨な男のものなのに、身の内の快楽を追う官能の風情は、眩暈がしそうな程艶かしい。

増やした指を深く押し込むようにすれば、イルカは息を呑んで腰を震わせた。

「や・・・っ・・・う」

きっと、カカシの指が自分の内側でどんな動きをしているのか、手に取るように感じているはずだ。粘膜を広げるように出し入れする動きに、閉じた瞼が震え、眉根が切なげに寄った。

「ん・・・んあぁっ・・・」

顎が上がり、赤い舌が濡れた唇の中で蠢くのを、カカシは魅入られたように見つめ、囁いた。

「・・・ね、イルカせんせ。キスさせて」

細く開いた黒い瞳が、瞬きを繰り返す。

「あなたの味を、オレに確かめさせて。全部味わわせて」

まるで、互いの舌と唾液が唯一の餌であるかのように、深く絡め、貪り合った。

 

 

 

別に、本気で仕置きしようと思った訳ではない。

葉桜の下で出立を見送ってから3ヶ月。鈴虫が恋を歌う季節になってようやく、イルカはカカシの元に帰ってきた。

ただいま戻りました、と言う想い人の笑顔に、アキホとの噂が下らないガセだった事を確信し、カカシは安堵の息をついた。

イルカの気持ちを信じていなかった訳ではない。

カカシにとってイルカは、人として生きていく為の糧そのものだが、イルカにとってのカカシは果たしてどうなのか、それが不安だった。

同性同士の二人では、血の繋がった子供を育めない。里の道具としていつ果てるとも知らぬ命では、将来の約束を交わす事も躊躇する。

何よりも大切な相手に、カカシは何一つ残せない。

イルカがカカシのものだと、イルカ自身に刻み付けられる証が何もない。

丁寧に細やかにカカシへの情を捧げるイルカが、カカシを裏切ることなどないだろうという事は、頭では分かっている。

だから余計に、カカシの執着は、誠実や信頼という言葉で片がつかない程に深くなる。

手に入れてから余計に増した独占欲。

側にいてさえ目に見ることの出来ない想い人の心を、どうすれば永遠に縛り付けておけるのか、カカシは何時も焦れ続けていた。

「腰、もっと高く上げて」

抵抗を封じて、イルカに獣の姿勢を取らせた。滑らかな双丘を割り、露になったそこを指と舌とで丹念に広げた。

「・・・すごいね。中、溶けてるみたい」

「ん・・・ん、あっ」

「3ヶ月ぶりなのにこんなになって。そんなにここが好き?」

「っ、ちが・・・」

カカシの揶揄に、必死に首を横に振る。カカシは薄く笑いながら、指を足の間に滑り込ませた。

「嘘ばっかり。ほら、ここも」

一度も解放を許していないイルカの雄は、もうずっと硬く張り詰めたままだった。

「根元まで濡らして。後ろ弄られて、気持ちいいって言ってるじゃない」

戯れのように指を絡めて、先端を引っ掻く。限界を迎える寸前で、焦らし、はぐらかすカカシの指は、溢れ出る先走りの雫でしとどに汚される。

必死で堪えているはずだ、とカカシは思った。

触れるカカシの細い銀色の髪や、軽い指先の感触にさえ、震える程の痺れが駆け上がっているだろう。下肢から聞こえるじゅくじゅくという水音も、肌を滑る熱い吐息まで、カカシに与えられるすべてに犯されているような気がしているのだろう。

なのに、入り口を弛める為にカカシが与える愛撫は、決定的な刺激とはならない。

ついに、カカシさん、と掠れた声が切なげに呼んだ。

「どうしたの?」

答えながら、じゅ、と音を立てて吸い上げると、イルカはびくびくと背を反らせた。同時に指がきつく締め付けられて、内壁がざわりと波打ったのが分かった。

「・・・おねが・・・いか・・・せて」

シーツを握り締めた手が、ぶるぶると震えていた。髪で隠れたその表情が見たいと、カカシはその背に覆いかぶさり、顎に手をかけた。

いつもは穏やかな光を浮かべ楚々としてさえ見えるその黒い瞳が、身を焼く情欲の炎を映して淫靡に揺らめいている。

その目に見つめられた瞬間、カカシの熱は沸点に達した。

昂ぶる心のまま、己の猛りをイルカに埋めた。ひっと息を詰めて前に逃げようとするイルカの腰を両手で掴み、カカシを迎えるにはまだきついイルカの肉を、抉るように貫いた。

「っそん、な・・・っあぁっ!!」

イルカの全身からどっと汗が噴出した。仰け反った全身がぶるりと震え、張り詰めたその雄から白い飛沫がどくどくと迸った。

「ん・・・ふっ・・・んんっ」

下腹と胸と、シーツに青い匂いが散る。かくりと、イルカの肘が崩れた。

「・・・触ってもいないのに」

カカシは、自分を締め付けるきつい収縮をやり過ごしながら、腰を高く上げたまま荒い呼吸を繰り返すイルカの耳に囁きかけた。

「挿れられただけでイっちゃうなんて、いつの間にそんないやらしい体になっちゃったの?」

泣き声のような声を上げて、イルカは首を横に振った。

「お・・・かし・・いっ・・・へん、だ・・・こんな」

イルカの抗議に、カカシは、くくと笑った。

「いつもと同じだって、イルカ先生が自分で言ったんでしょ」

突付くように小刻みに揺らせば、鼻に抜けるような吐息を零す。

「オレをぎゅうぎゅう締め付けて・・・いやらしいね、ここも、もうこんなにして」

後ろへの緩い刺激にも、イルカの雄は再び硬さを取り戻していた。

「男に挿れられて、突かれるのが好きなんでしょ?」

いやいやをする様に揺れる髪を見ながら、奥まで激しく突き上げた。

「ふっ・・・ああっ」

「好きな事、沢山してあげますからね」

きつい癖にとろりと絡み付いてくるような粘膜は、奥へ奥へと誘ってくる。

カカシも、もう止まらなかった。

 

 

 

「きもちいい?」

囁くと、黒い瞳から、ほろりと涙が零れた。

「いや・・・や、だ・・・お、おかしく・・・なる・・・」

「大丈夫、怖くないから」

だからどうか、その全部を頂戴。

 

 

 

「水、飲んで」

差し出したコップをちらりと見て、イルカはふい、と横を向いた。

「酒と同じ。水分を沢山取って、風呂に入って汗をかいたら、すぐに抜けるから」

「・・・・・・」

大儀そうな様子でベッドの上に座ったイルカは、窓枠にもたれたまま、カカシを見ようともしない。口がへの字に歪んでいる。

無言の抗議は後を引くかもしれない。カカシは小さく苦笑して、コップをサイドテーブルの上に置くと、風呂を沸かす為に部屋を出ようとした。

「・・・カカシさん」

呼ばれて振り返ると、相変らず不機嫌な表情がこちらを見上げていた。

「あなたが、どういう風に思ってるかは知りませんけど」

「・・・・・・」

「多分あなたが思っている以上に、俺はあなたの事が好きなんですよ」

ちゃんと、分かっててくださいね。

そう言って、カカシを真っ直ぐ見つめてくる眼差しは、凪のように穏やかで、カカシの何もかもを包み込もうとする程に、深く大きな光を浮かべていた。

「イルカ先生」

「・・・で。誰かさんのせいで動くのがしんどいんで、沸いたら風呂まで運んでって下さい」

可愛い我儘は照れ隠し。小さく尖らせた口元が、何よりもいとおしい。

嬉しくて。切なくて。

それでもどこか、もどかしくて。

ふわふわとした、泣き出しそうな気持ちで、カカシは頷いた。

 

 

 

完(06.09.14)

 

 

 

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