Shine on my dangerous road

 

 

 

1.

細い体だと、カカシは思った。

窓辺に立つイルカの背中が、窓から差し込む満月に晒されてしっとりと光っている。

その体は外勤の者と比較しても遜色のない程しっかりと鍛え上げられていたし、草と呼ばれる忍としての強かさのようなものも十分に備わっていた。

そして、肩甲骨の少し下、背骨を横切るように走る大きな傷跡が、イルカの人としての気高さを物語っていた。

葛藤と懊悩を自らの力で乗り越えたからこその力強さ。頼り、縋り、寄りかかっても、その重みをしっかりと支える事ができる男の体がそこにあった。

それでもカカシは、今目に映るイルカの背中を、細く儚いもののように捉えた。

それは自分自身の心がそう見せるのだ。自棄と劣情の入り混じった奇妙な高揚感の中でカカシはじっとその背を見つめた。

「・・・あの、カカシさん」

ずっと黙ったまま背後に立ち続けるカカシに、イルカが不安気な声を掛けた。

「み・・・見ないで貰えますか?」

「どうして?」

カカシの返答に、イルカは、く、と小さく息を飲んだ。その耳が、見る見る赤く熱を持っていくのが薄闇にも分かった。

「・・・恥ずかしくて・・・すみません」

「何で謝るの?」

再び、すみません、と生真面目な口調でイルカは言った。

普段は高く結い上げている長い黒髪が流れ、日に焼けた項が露になった。そのしなやかで純粋な色をした肌から眼を離すことができないまま、カカシは、イルカへ一歩を踏み出した。

引き寄せられるように項に口付けると、イルカの全身が打たれたかのようにびくりと震えた。

舌先でそのしっとりとした感触を味わい、丸く浮かぶ骨を唇で包むように食んだ。背中から抱きこむように腕を回し、引き締まった腹から堅い胸へと指を這わせると、自分自身の反応に戸惑うような声が微かに零れた。

「・・・っ・・・ん」

こうした愛撫を女に施す事はあっても、受けるのは初めてなのだろう。自分の欲を知る艶やかさと初々しさが混じり合って、危うい色が漂い始めた。

カカシの呼気が肌に触れる微かな刺激にさえ、熱を帯び始めた体は反応を抑えられないらしい。窓枠にもたれるように手をついて、イルカは切なげな吐息を零した。

「これだけで、感じる?」

カカシの囁きに、目元を赤く染めながら、くそ、と小さく呟くのがこの男らしかった。

翻弄したいと思い、翻弄されるだろう予感がある。

カカシは目を細めて自分の唇を舐めた。

滑らかな胸に立ち上がった突起に強い程の刺激を与え、反り返った首筋を舐め上げた。血を集める耳朶に歯を立てながら、下腹で立ち上がる己の熱をその腰に軽く打ちつけて、これから先の行為を連想させた。

「・・・カカシさん・・・っ・・・」

「ベッドへ」

耳に吹き込むように命じれば、覚悟を決めるようにイルカは一度目を閉じた。再び開いたその漆黒の瞳には、迷いをなくした強い光と、慎み深さの奥に隠れた淫靡な欲望が交じり合っていた。

 

 

 

濡れたシーツが、冷える事なく新しい滴りを吸う。

両腕を手首で頭上に一つに縫い止めて、肩に膝をかけさせ、窮屈な程に折り曲げさせた姿勢で穿つ。

イルカの腹から胸にかけて、淫らな白い雫がぬめった跡を残している。肉のぶつかり合う音に混じって、接合部からぬちゃぬちゃと泡立つような卑猥な水音が漏れる。

互いに、もう何度放ったのか分からない。

それでも、カカシの欲には果てが見えない。

最初、受け入れる痛みに強ばっていたイルカの体を、カカシは容赦なく押し広げた。イルカの雄に指を絡ませ、きつく擦り上げながら内側を犯し、カカシの熱に応えようとする心と、思っていた以上に敏感な肉体に、強引に快と悦の感覚を教え込んだ。

今、眼前に晒されたイルカの咽から溢れるのは、紛れもない歓喜の喘ぎだ。

「あっ・・・ん、あぁっ・・・」

視点の定まらない瞳から黒髪を張り付かせた頬へ伝い落ちるのは、確かに愉悦の涙だ。

「カカシ・・・さ・・・んっ・・・」

きつく揺すり上げられながら、たどたどしく頼りない口調で、イルカが囁いた。

「あなたが・・・好き、です」

その言葉を、甘く掠れた声を、欠片も逃したくないとカカシは掬い取るように口付けた。

 

 

 

月が沈んだ明け方に、ようやくカカシはイルカを開放した。

そのまま沈み込むように眠りに落ちたイルカの黒髪を、カカシはそっと、何度も何度も、梳った。

そして、その髪の一房をクナイで切り取ると、日の出を待たずに、カカシは部屋を後にした。

 

 

 

その日の夕刻、次第に赤みを増してゆく空気の中で、カカシはイルカを探した。

アカデミーでの授業を終えたイルカは、受付の業務へ向かう為に、丁度アカデミーと受付の建物を繋ぐ中庭を歩いていた。

少し早めの足取りで、真っ直ぐな姿勢のまま、春の球根を植えたばかりの花壇の前を通り過ぎてゆく。黒髪を結い上げた様子も普段と変わりなく、昨夜の激しい情事を思い起こさせるものは何一つ、その姿から感じ取れなかった。

その男らしい横顔を、カカシは時間が許す限りじっと見守り続けた。

「こんばんは」

イルカが受付の通用口に入る寸前に、カカシはその背後に立った。

不意にかけられた声に、驚いた様子で振り返ったイルカは、すぐに、はにかむような微笑みを浮かべた。

「こんばんは。カカシさん」

「ね、今晩空いてる?」

カカシの問いに、イルカは僅かに頬を染めて頷いた。

「今日はね、あいつだから」

カカシは一息に告げた。

「え?」

「あんた中々具合が良かったって話したら、是非って」

カカシが眼で示した先、受付の正門に、数人で立ち話をしている忍の姿があった。

「あの、黒い短髪の奴。あんたまだ慣れてないから、無茶な真似はするなって言ってあるけど」

カカシに視線を戻したイルカの表情が固まり、みるみる赤くなり、すぐに紙のように白くなった。

「そ、れは・・・」

「あんたも良かったでしょ?男は初めてだって言ってた割には、随分いい声で鳴いてたじゃない」

信じられない、と大きく見開かれた黒い瞳が探るように揺れた。カカシは、口布越しにも分かる程冷淡な笑みを浮かべた。

「ちょっと・・・まさか、好きだなんて言葉、真に受けてた訳じゃないよね」

イルカの体が、突き飛ばされたようにぐらりと傾いだ。

「そんなの、気分を盛り上げる為によく言うじゃない?」

通用口のドアに後ろ手をついたイルカは、青白い顔を伏せ、唇を戦慄かせた。

「・・・何それ」

カカシは大仰に肩をすくめて溜息をついた。

「たった1回寝た位で、恋人面されたんじゃ、堪んない」

「・・・・・・」

「あんた感度もいいから、またヤッてもいいかとは思ってたけど・・・そんな面倒臭いんなら、もういいや」

そう言った途端、カカシの右の頬に、強い衝撃が走った。

避けるつもりの無かったその動きは、カカシの予想以上の痛みを伴った。

「・・・上忍殴るなんて、随分勇気あるじゃない?」

ま、昨夜に免じて今回は見逃してあげるけど。大げさに頬を摩りながら嘯くと、

「ふざけるな・・・っ!」

火のような怒りをその黒曜の瞳に燃え上がらせ、握り締めた拳を震わせて、イルカはカカシの脇をすり抜けるように駆け出した。

今にも崩れそうな程弱々しいその背中が、アカデミーの校舎の影に消えるまで、カカシはその場に立ち尽くした。

急に視界が暗くなった気がした。

夜が、歩き始めたカカシの足元から這い上がるように迫っていた。

「大丈夫か?」

そう言ってカカシの隣に並んだのは、イルカに今夜の相手だと示した短髪の上忍だった。

「大丈夫。悪いね、色々と」

「気にするな。一番しんどいのはお前だろ」

「・・・・・・」

労わりは、今はいらない。欲しいのはたった一つ。

「三代目に伝えて。首尾は上々だと」

「承知した」

上忍が薄闇に紛れるように消え、かわりに、ぞっとする程冷たい風が吹いた。

決意は固い。

だがそれで諦め切れる程、簡単な想いでもない。

迷うことなく、それでも、血を吐くような思いで選んだその罪は、これから先、カカシの生涯をかけて購う事になる。

だからどうか。大切なあなた。

闇に溶け込みながら、カカシは願った。

挫けぬよう、迷わぬよう。

行くべき場所へ辿りつけるよう。

照らして下さい。長く、暗く険しい、我が茨の道を。

 

 

 

進む

 

 

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