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ぽっかりと抜けた記憶。 不自然に空いた経歴書。 イルカの過去には、失われた時間があった。 何かの折りに、三代目に問うた事がある。 「お前には重すぎる」 記憶操作を施したのだと、暗に告げられた。 その頃、一介の戦忍にしか過ぎなかった自分に、一体何があったのか。 「記憶を操作された事はいいんです。忍ですから、里が必要と判断した事に異を唱えるつもりはありません」 ただ、ずるい気がして。そう言うと、カカシは訝しげに首を傾げた。 「ずるい?」 「記憶を失う事で、俺は、本来背負わなくてはならないものから免れてるんじゃないでしょうか」 自分の記憶に欠けた部分があると気付いてから、その気持ちはずっとイルカの心に蟠っていた。 「俺は、誰かを傷付けたのかもしれない。俺のせいで苦しんだ人がいるかもしれない。でも俺は、その事実を忘れて、こうしてのうのうと生きている。それが、申し訳なくて」 カカシの表情が、ふ、と緩んだ。 「相変わらず、真面目な人ですね」 「そう、ですか?」 そうです、とカカシは頷いて、 「あなたの、そういう所が好きですよ」 臆面も無く言うから、イルカの顔が勝手に熱くなった。 相変わらず。 カカシは口癖のように、イルカに対してこの言葉を使う。その表現が相応しい程長い時間を共に過ごした訳では無いのにと、イルカはカカシがその言葉を使う度に、どこか尻の座りが悪いような気持ちになる。 恋人の全てを知っていると顕示したいのか、もしくはイルカを支配下に置きたいという欲求なのか。だが、カカシが「相変わらず」という時は、確かにイルカの過去に触れた時で、何より懐かしさと優しさに満ちた瞳で紡がれるから、余計に訳が分からなくなる。 まるでカカシが本当に、長い間イルカを側で見守っていてくれたかのように錯覚してしまう。 「でも、やっぱり、一番好きなのは、瞳かなぁ」 そう言って、イルカの顔を覗き込んでくるカカシは、全てが美しくて目のやり場に困る。 「ずっと、黒だと思ってたんですが、中心は、深い藍色なんですよね」 これ位近付かないと分からないけれど。カカシはイルカの頬に唇を触れさせ、満足そうに笑った。 知り合ってまだ半年にも満たないが、カカシは、イルカ自身も信じられない程、イルカの深い部分に入り込んできた。 恋人として付き合ってくれと言って来たのは、カカシの方からだ。 正直、仰天した。 里の誉れと名高い男に対して、忍として尊敬の念は抱く。だがそれは、恋愛とは全く性質の違う感情だ。第一、数日前に出逢ったばかりで、イルカはカカシの人となりを殆ど知らなかった。それはカカシも同じだろう。 この歳になって自分の事を奥手だとは思わないが、イルカにとって誰かと特定の関係を結ぶのは、そう軽々しく決められるものではなかった。 一晩考えて、断った。だがカカシは涼しい笑顔で食い下がってきた。 「好きか、嫌いかでいうなら?」 「・・・嫌いでは、無いです」 三代目の高い評価も、周囲から集める尊敬と評判も、部下であるナルト達が一途に慕うその様子からも、カカシが人としても忍としても信頼に足る人物だと十分に分かる。 「だったら、試してみて」 「は?」 「俺があなたの恋人として相応しいか、試してくれればいい」 何て事をいうのか。イルカは再び仰天した。 「相応しいとか相応しくないかではないでしょう?」 大事なのは。 「そうですよ」 カカシは微笑んだ。 「こういうので大事なのは、気持ち。好きか、嫌いかって事。でも、イルカ先生は、そこで決めてくれないじゃない」 「・・・・・・」 「オレね、随分待ってたんですよ。待って待って、もう、待ちくたびれちゃった」 「・・・待ったって、あなたが告白してきたのは、さっきでしょう?」 そうでしたっけ?と、にこりと笑った顔に、押し切られた。その表現が一番相応しかった。 「あなたはこれが好きでしょう」 シーツの上で、意地の悪い前戯が続く。丹念な口淫と、奥に差し込まれた指の動きに、イルカは喘ぎ、ただ身悶える事しかできない。 「ふ・・・あ、ぁ・・・」 舌先で括れを愛撫されながら、先端をきつく吸い上げられる。カカシに在り処を教えられた、体内のその一点を執拗に弄られて、ついにイルカは限界を迎えた。 震える腰が吐き出す最後の一滴まで、カカシは口腔で受け止めた。 「・・・ご、めんなさ・・・」 内側を攻められて果てさせられた余韻は、長くイルカの中に残る。全部吐き出した後なのに、まだ体の奥が痺れている気がする。 「いいから」 自分の腿の間で、カカシが口元を拭う様を見るのは、酷く卑猥だ。 「あなたは、イッた後どんどん良くなるから」 低く端正な声で、とんでもない言葉を口にする。 「何もしないまま処女みたいに堅い所を抉じ開けて犯すのもいいけど、イかせてから挿れたあなたの中は、とろとろに溶けているみたいに熱くて、オレを食い千切りそうな位にきつく絡みついてきて、本当に、堪らない」 自分でも分かるでしょ?入れられたままだった指に、内側の膨らみを引っ掻くように刺激されて、脳天からつま先まで、痺れるような刺激が駆け抜けた。 「っ、ぁああ」 「オレの為でしょ?」 この、いやらしい体は。 「オレのものでしょ?」 何時しか、両足を大きく持ち上げられていた。 腰を抱え上げられて、カカシの両肩に膝が掛かる。開いた脚の間で、カカシを受け入れる為に熱く疼くのが、自分でも分かる。 獰猛な目で自分を喰らおうとする美しいこの男によって、全部、変えられてしまった。 抱かれるのは、怖い。イルカは思う。 もう何度も、数え切れない程にカカシに抱かれているけれど、今だ、恐ろしさは消えない。 自分が女性を抱いた時の、開放に向かって駆け上がり、頂の一点で弾ける快感とは違う。カカシの固い肉に穿たれる受身の愉悦は、永くイルカの体を支配し、心の奥底までを侵食する。 全身に狂いそうな程濃密な愛撫を受け、体の最奥に捻じ込まれた熱い猛りに翻弄され。堪えきれない嬌声に声を嗄らせて、イルカは我を失う。 体と心、すべてが、カカシと彼に与えられるものだけで満たされる。 それが悦びだと、幸せだと、教え込まれてしまった。 それが、怖い。 「ごめんね」 一晩中求められ、何度も果てさせられた。 燻り続ける情欲の熾き火と、指一本動かすのも大儀な程の疲労に、イルカの意識は朦朧とする。 それでもイルカは、カカシの腕を捜して手を伸ばした。本人には自覚のない、癖のようなものだ。カカシの腕に抱き込まれ、その体温に包まれると、酷く安心する。 揺り籠のような安らぎに浸りながら、イルカはカカシの声を聞いた。 「色々急がせてしまって、ごめん」 オレにとっては六年越しだけれど、あなたにとっては、まだ始まったばっかりだもんね。 「こうやって抱かせてくれるけれど、気持ちが、まだ、本当にはついてきてない事も分かってる」 でも、約束は約束だから。 「つけ込んで、囲い込んで、もう一生離さない」 いつか、あなたの全部を、オレのものにして見せるから 「覚悟を決めてね」 いつかどこかで誰かに言われた覚えがあるその言葉を口にして、カカシはイルカの瞼にそっと唇を落とした。 結局、カカシの言葉の半分も理解できないまま、イルカはカカシの腕の中で、その体温にかけがえの無い安らぎを感じながら、深い眠りに落ちた。 完(08.05.29) 1周年企画完結いたしました。 長らくのお付き合いありがとうございました! 果たして投票の結果通りのお話が書けたのかどうか・・・どきどき・・・。 少しでも楽しんでいただけたのなら何よりの幸せですv
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