「ふうーん」 あ、ふうーんが出た。 拗ねてる。こうなると面倒臭い・・・いやいや、結構引きずるんだ。 「つまり、イルカ先生は、今の性生活に満足してないって事ですよね?」 イルカは慌てて首を横に振った。 「そうじゃないです!充分満足してます、というか、満足し過ぎて困るというか何と言うか」 最初にカカシに抱かれた日に、生まれて初めてセックスで失神した。味わわされた愉悦は、過去カカシに抱かれた顔も知らない女達へ下らない嫉妬を覚えた程に深かった。 翌日に障る夜は手加減もしてくれるが、淡白な印象の外見と違い、カカシは丹念で執拗だった。正直、抱き殺されるのではないかと感じた事も一度や二度ではない。 「じゃあ、何考えてたの?」 これ見ながら、とカカシはちゃぶ台の上の本と薬を見た。イルカは、膝の上で握り締めた自分の拳に視線を落とした。 「・・・カカシさんは、どうなのかなって」 「どうって?」 「・・・・・・」 上手く言葉を見つけられないイルカを、辛抱強い沈黙が促した。 「・・・俺は、大雑把だし、気が利く方じゃないし、カカシさんに甘えてばっかりだから・・・愛想尽かされてやしないかって」 最後の言葉は、口にするだけで、ひやり、と心が冷えた。 これ以上なく大切にしてくれるカカシに、何を返しているだろう。何を返せば、カカシは幸せを感じてくれるだろう。それを知りたい。それが分からないのが情けない。 「・・・馬鹿ですよ、あなた」 カカシが小さく苦笑した。その微笑みがどこか悲しげに見えて、イルカの胸が小さく疼いた。 「あなたがいれば、オレは他に何にもいらないって、何度も言ってるつもりだったんですがね」 知っている。それは知っているけれど、そう思って貰える価値が自分にはあるのだと自惚れるには、きっと、カカシに惚れ過ぎてしまっている。 「でも、どれだけ言葉を尽くしても、多分、今は無理ですよね」 だったら。 「オレがどれ位あなたに参ってるか、教えさせて」 言葉じゃなくて、身体に。そう目を細めて、カカシは囁くように言った。 その表情がとてつもなくいやらしくて、イルカに背中がぞくりと震えた。同時に、冷や汗じみたものが伝い、何故か、捕食、という言葉が思い浮かんだ。 「誕生日のプレゼントはイルカ先生がいいです」 思いっきりべたな事を言って、カカシは、色々な意味でクラクラする程、男前に笑った。 ********** 「あぁ・・・っ」 声が、零れる。 獣のようにうつ伏せに這わされて、腰だけを高く上げた姿勢を取らされていた。 震える両腿は、カカシの片腕に抱えられるように固定されて動かせない。両手首は身体の前で結びつけられて投げ出す形になっている。 双丘と、その間にあるすぼまりを、カカシの前にすべて晒していた。舌と指が、そこをねっとりと這っている。 「んん・・・っ、う、・・・っ。・・・は、ぁ・・・っ」 熱い襞は、今まで幾度もカカシの愛撫を受け、数えきれない程カカシを受け入れている。いくらイルカが羞恥に震えようとも、この先にある目の眩むような悦びへの期待で淫らにうねる。 「ここね、真っ赤になって、オレの舌をきゅうきゅう締め付けるの」 襞と唾液が絡み合う密やかな水音と、低く甘い声が、イルカを耳朶から犯す。 「その癖、柔らかく膨らんで、もっともっとって、いやらしく絡みついてくる」 指で抉じ開けるように広げられて、イルカはシーツに顔を擦り付けて喘いだ。 「や・・・っ、あ・・・っ、」 「ここがこんなに欲張りになったのは、オレのせいでしょ?」 オレが、ここで感じるようにしちゃったからでしょ? 淫らな言葉は常に無く浴びせかける癖に、カカシは、イルカの雄には触ろうとしなかった。先端から蜜を滴らせ、張り出した部分から竿までしとどに濡れて、いつものように触れて欲しいと悲鳴を上げているのに、カカシの指は下生えや内腿を掠めるだけだ。 「・・・・・・っ、は・・・っ、う・・・っ」 熱くて、切なくて、堪らない。戒められた両手では、自分で慰める事もできなくて、イルカはただただ身悶えた。 戒めは只の紐だから、本気を出せば外せない訳は無かった。だが、外したくない。もしかしたら、それもカカシの意図なのかもしれないと、蕩け始めた頭の隅で思いながらも、イルカは結びつけられた部位に縋るように、両手を握り締めた。 「ここも」 胸の尖りをきつく摘まれて、イルカは汗の伝う背をしならせた。 「あ・・・っ、あっ、あ・・・っ」 「こんなに固くして、舐めて、触って、って誘ってる」 「ひ・・・っ、あ・・・っ、や、あ・・・っ」 押し潰され捏ねられる刺激に、びりびりと全身が疼く。 「噛み千切りたい位、かわいい」 背中から抱き締められ、耳に吹き込まれる囁きが、苦しい程の快感を呼んだ。閉じられない唇から伝う唾液を舐め取られる。 「・・・カ、カシ・・・さん」 もう耐えられない。 「何?」 「・・・さ、わって・・・ください・・・」 「どこを?」 思わずその白皙を睨みつけた。情欲を滾らせた獣のような目で見つめてくる癖に、余裕の笑みを浮かべる口元が憎らしい。 「ここ?」 濡れた双丘の間に、熱い猛りを押しつけられて、息を飲む。 「あ・・・」 違う、と言いたいのに、激しい予感に背筋がぞくりと震えた。 「この奥の、あなたが一番気持ちよくなれるところ、触ってほしいの?」 カカシの指が、イルカの顔に落ちかかる黒髪を掬い上げる。その仕草に導かれるように、イルカは頷いた。 「触ってあげる」 甘く意地の悪い囁きと共に宛がわれた、太く鋭い凶器のような先端が、じっくりと入り込んできた。 イルカは震える拳を握りしめ、広げられてゆくその熱い疼きに、吐息を零した。他の誰でもなく、カカシだけから与えられる至上の喜び。躾けられた身体は正直に、浅ましい程に期待している。 「・・・あっ」 敏感な襞が、固く張り出した場所と、括れを飲み込んだ。痛みは一瞬で、すぐにもどかしさに似た疼きが湧きあがる。 「すごい眺め・・・」 カカシの低く掠れた声が汗ばむ背中に落ちた。指先が入口をなぞる感触に身悶えて、肉襞は更にくっきりとカカシの形を感じとる。 「オレのでいっぱいに広がって、真っ赤になって・・・」 堪らない。 がつ、と音を感じる程激しく、全部を奥まで捻じ込まれた。腰の内側、その場所をきつく抉られて、目の眩むような絶頂感に襲われる。 「あ、あっ・・・っ!」 高い嬌声と共に、一度も触れられていないはずの屹立から、イルカは白濁を迸らせた。擦りたてて射精する時とは違う、吐き出しながらも身体の内側から溶けてゆくような快感に涙が滲む。 3年をかけてカカシに躾けられた身体は、既に受け身の刺激だけで達する喜びを知っていた。こうして果てさせられると絶頂が長引く。痙攣するようにイルカは何度も精をまき散らした。 「っ・・・ひ・・・あっ、あ・・・っ・・・あっ」 全てを出し切る前に、激しい律動が始まった。逃げられぬよう腰を捕えられ、荒々しく奥を突き上げられる。 「あ・・・あ・・・っ、はっ、はっ・・・あ・・・っ」 「熱い・・・」 尾てい骨に甘い囁きが響く。 「あなたの中、溶けてるみたいに柔らかいのに、きつく吸いついてくる・・・」 獣のように上げた腰を穿つ音が、部屋を満たす。 「どれだけいやらしくオレを食べてるか、自分で分かる?」 「や・・・っ・・・んっ・・・あぁ・・・っ」 言葉で責められ、肉の凶器で深く激しくかき回されて、身体の芯まで響く快楽に侵食される。無意識に腰が揺れ、先程放ったばかりの前が再びとろりと頭をもたげた。重苦しい程の熱が身体の芯に集まってゆく。 「あ、や・・・っ、あ・・・っ、ひ、んう・・・っ」 ぎりぎりまで引き抜かれ、最奥に打ちつけられて、イルカは喉を反らせて声を上げた。がくがくと震えが走る。全身の関節が溶けそうな程に感じて、自分の身体を支えていられなくなった。 「・・・っ、あ、ああ・・・っ」 崩れ落ちる身体を抱きかかえられ、そのままシーツに仰向けに返された。 「・・・あっ・・・あっ・・・」 角度の変わった切っ先に、最も感じる場所を突き上げられた。零れ出す声を口付けに奪われて、くぐもった悲鳴を舌に絡ませる。 「ん・・・んっ・・・っ」 縛られた両手首を頭上で固定されて、胸を突きだす姿勢になった。意地の悪い指先が、尖りきった突起を捻り、イルカは駆け抜けた痺れに背筋を反らせて跳ねた。 「だめ、そんなに締めないで」 甘く命令されても、与えられる切ない刺激に、蕩けた身体は勝手に反応する。もっと欲しいと言わんばかりに、淫らに収縮する内壁がカカシを締め上げる。 「や・・・そ・・・んなに・・・したら・・・」 胸の尖りをはじくカカシの指が、耳朶を犯す低い声が、深く繋がり合った部分が、堪らなく熱い。 「ここだけで、また、いっちゃいそう?」 いやらしい人。そう囁くカカシの飢えた獣の表情が、更にイルカの羞恥と情欲を滾らせる。 「カカシさん・・・」 か細く震える声で名前を呼ぶと、抱きあう程に身体を寄せられた。 「離さない」 イルカの耳に、掠れた声が吹き込まれた。 「あなたがいれば、他には何もいらない」 嵐の中心が凪いでいるように、カカシの言葉は静かにイルカに響いた。 「あなたしかいらない」 過ぎる快楽に暴かれて、むき出しになった心に、カカシの想いが染み込んでくる。 奥まですべて明け渡した身体に、カカシの情熱が刻みつけられる。 「だから、絶対に離さない。それだけ、ちゃんと、分かってて」 溢れる。カカシに与えられるものでいっぱいに満たされて、湧きあがる。 充足した心と身体から溢れ出したものが、イルカの目尻から頬を伝った。カカシの舌が、それを優しく舐め取った。 「全部、頂戴」 あなたを、全部。 「あ、や・・・っ・・・あぅ・・・っ」 両膝を胸につける姿勢を取らされて、再び始まったカカシの律動を受け止めた。引いた腰が、浅い所にある最も弱い膨らみを抉って、奥を突きあげる。これ以上ない程いっぱいに埋め込まれ、小刻みに揺らされる。下半身から脳天まで痺れが走り、カカシを喰いしばった内壁は、喜びに痙攣しながら、更に貪欲に喘ぐ。 「あぁ・・・っ」 固く張り詰めて先端からはしたない蜜を零していた屹立を激しく擦り上げられて、イルカは悲鳴のような声を上げた。 「や・・・もう・・・っ・・・」 再び絶頂が近づく。 「いって」 ようやく両手の戒めが解かれ、イルカは溺れる者のようにカカシの背に縋りついた。重なる肌がカカシの体温を感じ、狂おしい程の愛しさが湧きあがる。 「あ・・・っ、あ、あ・・・っ!」 質量と張りを増したカカシ自身に、一際荒々しく穿たれた瞬間、脊柱を駆け上がったものが、頭の中で爆ぜた。 四肢を緊張させ、イルカは精を放った。同時に息を詰める気配がして、最も深い場所へ灼熱が叩きつけられる。それを快感と受け取る身体が更に喜びを深くして、イルカは精を吐き出しながら、痙攣するように身を震わせた。 互いの荒い呼吸が部屋に満ちた。最後の一滴まで注ぎ込もうとするように腰を振ったカカシが、ゆっくりと圧し掛かってくる。 「・・・イルカ先生」 吐息のように名を呼ばれた。両手を繋ぎ、指を絡めあい、深い口付けを交わす。舌を絡め、注ぎ込まれるものを飲み込んで、唇を舐めて食むと、こら、とカカシが苦笑した。 「そんな風にしないの」 我慢がきかなくなるでしょ。 「あ・・・」 埋め込まれたままの楔が、再び硬度を取り戻してゆくのを感じて、イルカは戸惑いの声を上げた。 「明日は休みだし。ゆっくり時間をかけてと思ってたけど」 たっぷりと濡れた奥を突かれて、くちゅり、と淫らな音が立った。それだけで、さざ波のように淡い疼きが広がって、イルカは吐息を零した。 「このまま、もっと、可愛がらせて」 髪を撫でる白い掌に、常に無く背筋が震える。 「オレが満足するまで、抱かせて」 カカシの言葉を、色違いの瞳の奥に燃える焔を、拒む事などできる訳が無い。 イルカは、カカシの背に回した両腕に、頷く代わりに力を込めた。 求められる以上に与えたいと、ずっと、願っている。 開け放した窓から、秋の爽やかな風が吹き込んでくる。 上忍控室のソファーに腰を下ろし、青く晴れ渡った空の下に広がる里の風景を眺めていた紅は、ふと、唇を緩めた。 間もなくドアが開き、銀色の髪をした猫背がのそりと入ってきた。 「お疲れ」 「お疲れ様」 紅の隣にどさりと腰を下ろしたカカシは、ポケットから愛読書を取り出した。 「今日は待機?」 「そうよ」 紅は、テーブルの上で香りを立てるコーヒーに手を伸ばした。受付にあるベンダーのインスタントだが、上等においしい。 「余計な事しないでよね」 手元に視線を落したまま、不意にカカシが言った。 「あら」 余計な事?と紅は小首を傾げて聞き返した。だが口元はどうしても笑いを含んでしまう。 「あの人、結構気にするタイプなの」 「そう?」 紅から見れば、イルカはズボラな位大らかな男だが、恋人にしか見せない顔、というものもあるだろう。 「ま、私にも付き合いってものがあるのよ」 悪いわねえ、と悪びれもせず言った紅を、カカシは横目て見るとため息をついた。 「もう付き合って3年にもなるんだし、オレとしては、あの人の当たり前になりたいだけなんだけど。あの人、頑固だし、変なとこで気を遣うから」 「当たり前?」 カカシは、ぱたりと愛読書を閉じた。 「オレに好かれてて当たり前、って思って欲しい訳」 あの人の人生の隣にオレがいる事、生涯オレに想われる事、オレの全部が、あの人の当たり前になりたい。 「それ位、あの人の中に入り込みたいの」 聞いている方が赤面しそうな事を、カカシは、至極真面目に、真摯に言った。 全く、この男は。紅は、居酒屋で頭を抱えていたイルカの姿を思い出した。カカシに心底参っているのだと傍から見ても分かるのに、まだ欲張るか。 「恋してるのねぇ」 呆れ半分からかい半分で言ってやったら、 「してるよ。悪い?」 恥ずかしげも無く言うものだから、紅は、思わず声を上げて笑ってしまった。 「ねえ」 「何?」 「本当に、余計な事だった?」 カカシは僅かに目を見開いて、それから、再び愛読書に目を落とした。口布と額宛に隠された表情は窺い知る事はできないが、否定しない意味を悟って、紅の笑みが深くなる。 「まぁ、言葉だけじゃ足りない時ってあるわよね」 「・・・まあね」 紅は、少し温くなったコーヒーを手に、再び窓の外に視線を向けた。 空が、また、高くなった。 完(09.09.02〜09.09.22) |
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