3.

試しに押し倒してみたら、案の定抵抗された。

でも、こう見えても上忍ですから。

オレはイルカ先生の腰に馬乗りになり、その両手を頭の上で押さえつけた。身を捩って逆らおうとする姿が、なんとも言えず、いい。

「やめてください、はたけ上忍っ・・・」

ついに、イルカ先生は悲鳴のような声を上げた。オレは笑った。

「嫌。やめない」

ぎり、と睨みつけてきた。

「これは、命令ですか」

「違いますよ。野暮な事言わないで」

「じゃぁ、何ですか」

「何でしょうね」

ふざけるな、と口の中で悪態をついて、イルカ先生は抗う力を更に強めた。あんまり痛い思いはさせたくないんだけど。

思ったより、イルカ先生は力が強い。でも、力の流れの読み方は、オレの方が熟知している。どこをどう押さえたら、抵抗できなくなるか、分かっている。

動きを封じられて、イルカ先生が悲痛な表情で呻いた。

アンダーをたくし上げ、素肌に手を這わせた。しっとりと吸い付くような感触。びくり、とイルカ先生の体が震えた。

「お願いです、止めてください」

あんまりお願いされているような気がしない声音で、イルカ先生が言った。俺はその耳元で囁いた。

「ねぇ、どうして、嫌なの?」

「俺の事、好きでも何でもないでしょう・・・」

「好きじゃなきゃ、こういう事しちゃいけないの?」

真面目だね。揶揄するように言うと、イルカ先生は、唇を噛んで俯いた。そういう顔がそそるって、わかっててやってるの?

「・・・お願いします、命令して下さい」

「そそる言い方だけど、や〜です。命令されたから、任務だからなんて、それじゃあ、オレの立つ瀬がないでしょ」

そういうつもりで、抱きたいんじゃない。ではどういうつもりか、と聞かれると返答に困るけど。

じゃあ、こういうのはどう?オレはイルカ先生の耳元に唇をつけて囁いた。

「可愛い弟子に裏切られた可哀相なオレに、慈悲を下さいよ、イルカ先生」

びくり、と再びイルカ先生の体が震えた。

「・・・あなたって人は・・・」

強張っていた全身から、力が抜けた。

あれ?いいの?やっちゃうよ?

遠慮はしません。オレはイルカ先生のアンダーをたくし上げた。露わになった肌に舌を這わせる。

「先生、初めて?」

舌を滑らせる度に、イルカ先生の体が揺れる。結構、いやかなり感じやすい体質とみた。

「・・・こういう状況で、そういう事を聞くのは、どうかと思いますが」

色っぽい顔で、イルカ先生は色気のない言い方をした。

「知りたい。教えてよ」

せがむと、目を逸らした。

「・・・同性とは、経験ありません」

「じゃあ、オレがイルカ先生の初めての男になるんだ」

嬉しいね。物凄く。

「ひどい人・・・」

イルカ先生が小さく呟いた。

「そう、よく言われる」

イルカ先生は、何か言いかけて、結局口を噤んだ。

あぁそう言えば。キスもしてなかった。

唇を寄せかけて、止めた。

好きな人としかしないなら、ここだけは、唇だけはそのままにしてあげる。

なかなかに少女趣味。自分でも、笑いそう。

でも、他のところは、いただきます。

オレは、イルカ先生の薄く開いた唇を見ながら、そのしなやかな体を抱きしめた。

 

 

 

任務前は、湯だけで流す。

石鹸もシャンプーも使わない。匂いが残ると困るから。

本当は、湯もよくない。その人の肌の匂いがたちやすいから。

風呂場から出てきたイルカ先生は、濡れた髪を無造作に首元でまとめていた。

いつもは高くきっちりと結い上げているその髪が、顔や首筋に落ちかかって、その風情が妙に婀娜っぽい。

「・・・何、見てるんですか?」

こちらに背を向け、身支度を整えながら、イルカ先生は言った。

「いや、色っぽいな、と思って」

「下らない事、言わないで下さい」

ここで頬でも染めれば、可愛げがあるのに。

ある意味、同意の上の行為。イルカ先生はぐじぐじ言わず、オレを受け入れた。さすがに初めてと言うだけあって、後ろを使うことには抵抗を示したけれど。

・・・何て声出すんだろうね、この人は。

才能あるっていったら、怒るだろうなぁ。

イルカ先生は鏡も見ずに、いつもの髪型に綺麗に結い上げた。そして、テーブルに置いた額宛をつけ、ようやくオレを見た。

「お待たせしました」

「・・・急がなくてもよかったのに。出るのは夜中なんだから」

「いえ」

小さく返して、イルカ先生は、ベッドに腰掛けたオレの視線から一番遠いところに行った。つまり、ベッドの、オレのいる反対側だ。

まぁ、いいけどね。

「イルカ先生、疲れたでしょう。横になって目を閉じてなさい」

「いえ、結構です」

「命令だ、って言ったら?」

じろり、と音が聞こえるような目で、イルカ先生は背中越しにオレを睨んだ。

いいね、そのクソ生意気な態度。見返すと、しぶしぶといった感じで、オレに背を向けてベッドに横になった。

犬は躾けたら、飼い主に従順になるけれど。

この人は犬じゃない・・・やっぱり、失敗した。構うんじゃなかった。

オレはベッドに足を上げ、ヘッドボードに上半身をもたせかけた。イルカ先生がわずかに身動きしたが、構わず、腕を組んで目を閉じた。

眠る訳ではない。ただ、目を閉じているだけで、体は休まる。

じっと時を待つ。

毎度の事ながら、この待機している時間が嫌だ。考えたくない事まで、考えてしまう。

「・・・はたけ上忍」

横になって向こうを向いたまま、イルカ先生が言った。

「何?」

「サスケは・・・・・・」

「・・・ま、なるようになるでしょ」

戻らないかもしれない、とは、言わない。

「あなたは、それでいいんですか?」

「・・・よくはないですけどね」

間違った方法で得た力は、いつか己を滅ぼす。それが分からない馬鹿ではないと思っているけれど。

「自分自身の思い込みでつっ走って、若気の至りで済まない事になったら、悔やんでも悔やみきれませんから」

どこかの誰かさんみたいにね。

「・・・後悔なさってる事が、あるんですか」

オレはイルカ先生を見た。

「何?オレに踏み込む気?」

自分でも驚くほど、冷えた口調になった。

「好奇心は猫を殺すって言葉、知らない?」

イルカ先生はゆっくりと体を起こした。

「そういうつもりでは・・・申し訳ありません」

ただ、あなたは俺の憧れでしたから。そう言って、俯かれた。

「強いばかりの人だと、思ってましたから」

「何ですか、それ」

随分買いかぶって貰ったものだ。

「変な同情は、おこがましいと思いませんか?俺はナルトでもないし、サスケでもない」

「・・・・・・」

「それに、自分も傷ついてるんだから、人に構うのはおよしなさい。面倒臭いですよ。あなた」

初めて見た。イルカ先生の傷ついた顔。

「オレは、あなたみたいな人は好きですよ。でもね」

イルカ先生の唇を見ながら言った。

「・・・どうせ死んでしまうんだったら、従順な方がいいでしょ?」

 

 

 

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