心から好きになった相手に、たった1回寝た位で恋人面されては堪らないと言われるのはどんな気持ちだろう。

面倒臭いと言われるのはどれ程の痛みだろう。

だが、カカシの不実で残酷な仕打ちの後も、イルカの様子は変わらなかった。

目を腫らして仕事に来るような事はない。普段と同じように子供達を導き、受付ではいつもの労わりの笑顔を見せた。

それでいい、と思う。

呆れればいい。蔑めばいい。

愚かで浅ましい男だったと、嘲ってくれればいい。

 

 

 

6.

「先輩怖いっすよ」

普段なら、カカシがいくら不機嫌でも構わず話しかけてくるテンゾウでさえ、ただそれだけ言って遠巻きにする。

人の気配が煩わしくて、カカシはいつにも増して単独任務を選ぶようになった。任務の後も、なかなか気が落ち着かない。だが、イルカ以外の誰かを抱く気にもなれず、ささくれ立った心を紛らわす為に連続で任務を受けた。

そんなカカシに、三代目は何か言いたげな視線を向けたが、カカシはそれを拒んだ。

イルカの心からカカシがいなくなれば、ナルトは安定する。その為に、他にどんな方法があったというのか。

その為には、憎しみのような強い感情をイルカに残してはいけない。相手にする価値のない男だったのだと、野良犬にでも噛まれたのだと、忘れて貰わなくてはならない。その為ならどんな下劣も厭わない。そう思っていた。

数日後の夜、報告の為に三代目の屋敷を訪れたカカシは、いつものように書斎のドアをノックした。

はい、と聞こえた返事に、一瞬体が固まった。

まさか、駄目だ、と頭の隅で理性が言ったが、カカシの手はドアノブに伸びた。

ランプの明かりに照らされた室内で、イルカが一人机に向い、巻物を読んでいた。顔を上げてカカシの姿を認めると、イルカは動きを止めた。見開かれた瞳は、すぐに、弾かれたように逸らされた。

「・・・三代目は、ナルトの様子を看て下さってます。暫く戻られません」

静かな声は、僅かに低くぶれていた。

「・・・そう」

微かに、時計の秒針が動く音が聞こえた。

「あんたは?何やってんの?」

近寄ったカカシは、イルカの前に広げられた巻物に目を遣った。

「・・・四代目がナルトに施した封印術について研究した、三代目の資料を見せて頂いています」

視線を手元に落したまま、イルカが答えた。傍らに膨大な数の巻物とメモが山と積み上がっている。三代目は、プロフェッサーと評される忍術研究の権威でもあった。

「俺に何が出来る訳でもありませんが、少しでも、ナルトの事を知りたくて」

ナルトを思うその優しい声は変わらなった。

何か、黒く熱いものが、カカシの内側を這い上がった。

昼間はきっちりと結いあげられているイルカの黒髪は、今は項で緩く結わえられていた。日に焼けた首筋は、手元を照らす明かりの中で、やけに白々と見えた。大きく空いたシャツの襟元から、くっきりとした鎖骨が覗く。

ほつれ毛のかかった額には、まだ傷が生々しい。伏せられた瞳と、睫毛。

カカシの頭の中で、黒い溶岩が弾けた気がした。

手を伸ばし、その肩を掴むと、イルカは体を震わせてカカシを見上げた。

見つめあったその眼にあったのは、怒りではなく、ましてや、蔑みでも無かった。

カカシと同じ、許されない情熱。求めてはいけないと知っていながら、それでも殺すことのできない渇望が、その瞳にあった。

絶望と、それを上回る歓喜が湧きあがった。

「あれ?」

もう、抑えられなかった。

「あんた、結構好き者だったんだね」

「・・・っ」

「そんな、物欲しそうな目で見ないでよ。抱いて欲しいの?」

カカシの言葉に打ち据えられたように、イルカの唇が戦慄いた。

掴んだ肩を引いて、カカシはイルカを床に倒した。大きな音を立てて、椅子が飛んだ。床に這ったイルカは息を飲み、逃げるように腕を伸ばした。

その体に圧し掛かり、カカシは鉤爪で服を引き裂いた。しなやかな背中が露わになり、ほどけた黒髪が肌に散った。

裂いたシャツで、手早くイルカの両手を縛り上げた。うつ伏せの姿勢でカカシの体重を受け止めたイルカが小さく呻き、身を捩るのが、カカシの激情を更に駆り立てた。

「抱いてあげるんだから、大人しくしてよ」

強張ったイルカの上半身を床に押し付け、腰だけ高く上げさせた。下穿きごとズボンを引き下ろすと、屈辱的な姿勢に、イルカの全身がぶるぶると震えた。戒めた拳が白くなる程握り締められるのを見ながら、カカシは口で咥えて手甲を外し、消毒用の軟膏を、イルカの後口に塗り付けた。

「んっ・・・」

「怪我したくなかったら、力抜いて」

固く噤んだ窄まりを指でこじ開け、内側の襞を伸ばすように捏ねると、まるで己の熱で溶けたかのように、次第に熱く潤んで絡みついてきた。

初めて抱いた夜に教え込んだ受身の快楽を、イルカの体は従順に覚えていた。

オレのものだ。

願いのような浅ましい独占欲に浮かされながら、指を抜き、カカシは己の欲望を押し当てた。

この体は、この存在は、オレだけのものだ。

「あぁっ・・・!」

貫いた時、零れ落ちたその声は、確かに、悦びだった。まるでカカシを待ち侘びていたと錯覚させるかのように、きつく甘く、カカシを締め付けてきた。

「・・・真面目だけが取り柄の先生だと思ってたけど」

抱き込み、耳に囁くと、ひくり、と鳴った喉と同時に、内側の襞が脈打った。

「あんた、ほんと、いやらしいね」

一度腰を引き、前にイルカが泣いた場所を狙って突き上げると、

「あ、あぁ・・・ぁ・・・」

イルカは背を反らせ、官能に濡れた声で、カカシの律動を受け止めた。震えるその腰をきつく引きよせ、カカシは激しく打ち付けた。淫らな肉の音と、イルカの泣き声のような嬌声が、部屋中に響き渡った。

己の怒張が、イルカの体中に根本まで入り込み、てらてらと濡れながら抜き出る様は、扇情的で目が眩みそうだった。固く育ったイルカの雄に手を伸ばし、先端から溢れる蜜で扱きあげると、潤んだ声が限界を伝えてきた。

「いいよ、イって」

「ん・・・は・・・あぁ・・・っ」

びくびくとイルカが放つ度に、内壁がカカシを誘い込んだ。その刺激に追い立てられるように、頂点が近づいた。

イルカの背中に走る傷の上に、カカシは放った。欲望の雫が、イルカの肌を、髪を汚し、楔を抜かれたイルカの体は、床に崩れ落ちるように伏した。

荒い呼吸と、青い匂いが、部屋に満ちた。

「・・・・・・」

イルカの両手を戒めていたシャツを、クナイで切った。イルカの背中から白濁が伝い落ち、その刺激にか、イルカは小さく体を震わせて、肘をついて起き上がろうとした。

いけない。

カカシはそのまま立ち上がり、振り返らずに部屋を出た。

いけない。顔を、瞳を、見てしまっては。見てしまえば、きっと、互いの本心が溢れ出して、止められなくなってしまう。

扉を後ろ手に閉めると、何もかもを投げ出したいような息苦しさが這い上がってきた。

閉じた扉の向こうから、

「・・・あなたを、忘れたいのに・・・」

むせび泣くような、小さな慟哭が聞こえた。

 

 

 

「何をやっておる」

翌日、カカシを執務室に呼んだ三代目の視線は刺すようだった。カカシが去ってから程なく書斎へ戻ったらしい三代目の目には、何があったのかは一目瞭然だっただろう。

「申し訳ありません」

頭を下げたカカシに、

「それは、何に対しての謝罪じゃ?」

「・・・自分の感情をコントロールできなかった事です。・・・また、彼を、傷つけてしまった」

「イルカも、同じように謝っておった」

三代目の手が煙草に伸びた。

「お主を忘れなければならないのに、とな。・・・本当に・・・お主らは・・・」

重い溜息と一緒に、煙が吐き出された。

「申し訳ありません」

「儂に謝るな。謝るなら、イルカ本人にじゃろう」

昨夜も同じ事を言うたわいと、三代目は呟いた。

「ナルトの事じゃがな」

「はい」

「いつまでも、ナルトを屋敷に閉じ込めておく訳にはいかん。本人も、外に出れんのを不審がっておる。じゃが、万全を期していたはずの封印が切れかかった事を考えると、安易に、ナルトを外に出せん。特に、アカデミーにはな」

「何かあったんですか?」

「どうもアカデミーで、イルカの額の傷が周囲に知られたようでな。ナルトが登校しておらんのは、ナルトが傷を負わせた張本人で、儂に罰を受けているんだという噂が流れておる」

「それは・・・」

情報が漏れたのではなく、全くの憶測だろうが、原因に関して的を射てしまっている。

ことイルカに関して、今のナルトは感情的に不安定になり易い。噂がナルトの耳に入って、封印に影響する可能性は低くない。

参ったの、と呟いた後、暫く、三代目は黙って煙草をふかし続けた。

「・・・一つ、考えがある」

ようやく発せられた声は、先刻までとは違う、冷静な忍隠れ里の長のものだった。

「忍としての技量とチャクラ量を考えると、この方法をとれるのは、この里にはお主しかおらん。じゃが、不確実な上に、危険が大きい」

それでも。

「やってくれんか。カカシ」

カカシは、頷いた。

 

 

 

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